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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区)



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。博士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。学部長。専門は調理学、食文化研究。


行事食を考える



◎「七夕」とそうめん




 夏到来ですが、キャンパスは前期の試験期間に入り、図書館や情報機器室には普段にも増して学生の利用が活発になっています。7月いっぱいは学生でにぎわい、8月になるとゼミ生やクラブ・サークル活動などゆったりとした自由な学園の雰囲気に変わります。

 食文化論の授業ではこの時期に行事食を取り上げます。その一部を述べてみたいと思います。最近は夜空を見上げて星を見る機会が少なくなってしまいました。そして今年7月7日の七夕は、残念ながら天の川を見ることができませんでした。

 約140人クラスを週2回授業をしておりますが、七夕がどういう行事であるかをとてもよく理解している学生は3割くらいでしょうか?ましてそれにまつわる食べ物となると1割に満たないかもしれません。アルタイルやベガといった西洋式の星の名称はなじんでいても、牽けんぎゅう牛や織女などは本当に知られていないのが現状です。

 七夕にはそうめんを食べる話になると眠そうにしている学生も目が覚めるようです。そして興味をもって講義に耳を傾け、行事と食物の結びつきに意味があることに関心を抱き、もっと調べてみることにつながっていきます。

 私の子どものころ、里芋の葉から朝露を集めて、その露で墨をすり、願い事を短冊に書いた体験を話します。そして織女にあやかって織物(手芸)が上手になるように願い、織り糸に見立ててそうめんを食べること。七夕のそうめんは特別に5色のそうめんにするところもあることを話します。ついでにうどん・冷麦とそうめんの違いについても言及します。

 そもそも七夕は中国の乞功奠(きっこうでん)と従来の日本の星を祭る考えとが相乗されて成立したことなどの話で興味を引き出しています。笹の七夕飾りの行事終了後の処理の仕方の変容も、環境問題に結び付けるよいきっかけになります。なぜその行事と食物が結びつくのかを考え、その背景となる文化を伝承していく必要性を感じています。

 時間の流れによって取捨選択され、形式も変容していくでしょうが、形式のみではなく意味づけを伝承することの大事さをくみ取ってほしいと願っています。学生の多くは祖父母との経験が心に深く刻まれることが多いようです。

 ところで江戸時代の夏の様子として『東都歳時記』「真夏路上の図」には、ところてん売り・水売り・てんぷら屋台売り・西瓜(すいか)の切り売りが描かれています。またそのほかの資料には土用の丑(うし)の日のうなぎや甘酒が夏の風物詩として書かれています。土用の丑の日のうなぎは今に続く慣習です。今年の夏は夏バテせずに元気にしのぎたいものです。







(上毛新聞 2010年7月23日掲載)