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日本タンゴ・アカデミー副会長  飯塚 久夫(東京都世田谷区)



【略歴】前橋市出身。東京工業大大学院修了後、電電公社入社。本業の傍らタンゴを研究し「タンゴ名曲事典」(中南米音楽刊)の共著も。現在NECビッグローブ社長。


タンゴ映画を見て思う



◎健全な情熱で若返り



 昨今、あらためてアルゼンチン・タンゴが、ダンスを中心に世界的流行になっている背景を探っているのであるが、今年はアルゼンチン建国200周年ということもあって、日本でもタンゴにかかわる各種行事が行われている。

 この7月3、4日には横浜でタンゴダンス世界選手権大会に先立つアジア大会が開かれ、昨年を上回る88組が出場、観客も過去最高の約1000人という盛況であった。8月にブエノスアイレスで開催される世界大会には、世界中から10万人を超す参加者が集まることであろう。昨年の世界大会では「洋史&恭子」という日本人ペアが初優勝し話題となった。また、7月10日には浅草公会堂で日本中のプロ・アマ楽団総ぞろいのタンゴ・コンサートが初めて開催された。

 「伝説のマエストロたち」と題するタンゴ映画の上映も始まっている。これは平均年齢80歳の現役マエストロたち22人のタンゴ人生に懸けてきた情熱や機微、故郷への誇りや郷愁、友人への愛や想(おも)いを見事につづり、最後は世界三大オペラハウスの一つ、コロン劇場での大コンサートに至るドキュメンタリーである。

 アルゼンチン・タンゴは、音楽も踊りも、年をとるほどに、演奏する方も聴く方も深みを増す何かを感じるのが面白いところなのであるが、この映画に出てくるマエストロたちは、1920年代からタンゴ黄金時代を担ってきた人もおり、そうした人生の“味”とでもいうものを体現しているのである。

 日本では、高齢化が叫ばれ、特に地方では街の崩壊すら起きかねない恐れがある。私も、故郷前橋に帰る度に残念ながらいわゆる“シャッター通り”なる言葉を実感して、高齢化を関連付けて考えてしまう。しかし映画「伝説のマエストロたち」を見て思うことは、年寄りこそが社会の礎であり、社会は、年寄りが(タンゴであろうがなかろうが)健全な情熱を傾けるものがあればいくらでも若々しさが続くということ、そして年寄り自らもその情熱をそそぐものによってかえって若返るのだということである。

 一方、8月には「瞳の奥の秘密」というアルゼンチン映画が封切られる。本年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作品である。「人生の終盤」に面した男が、25年前の葬られた事件の真相究明に立ち上がる話。実は犯罪ドラマではなく、愛する者の不在に耐えながらその灯火を燃やし続ける真の愛の物語だ。舞台は軍事政権化直前、1974年のアルゼンチン。欺瞞(ぎまん)が氾濫(はんらん)することによって、社会の崩壊がいかに訪れるかということも見事に描いている。他人の国のことではないと感じるのは私だけだろうか。







(上毛新聞 2010年7月26日掲載)