視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区)



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。



起業のために



◎失敗を恐れない覚悟を



 経済不況と叫ばれているこのご時世でも、起業家精神あふれる方々が群馬県下で新たなビジネスをスタートするたくましい姿が見受けられる。創造的なアイデアを思い付き、虎視耽々(こしたんたん)と開業のタイミングを見計らっている方々も少なくないのであろう。

 起業のために最も大切なことはという問いに対しては、十人十色の答えがあると思うが、私は「失敗を恐れない覚悟を持つこと」だと考えている。初心を変えずに無謀に猛進しろということではなく、積極的にリスクを取りにいけということでもない。高らかな志さえあれば足元の経営計画・管理はザルでよいという話でももちろんない。例えば、あるビジネスを始めたいとする際、おおよそやり遂げる自信がある場合であっても、失敗への恐怖感がわずかでも頭によぎってしまうとなかなか第一歩が踏み出せないことが多いのではないだろうか。しかし事業を経営する以上、リスクは不可避である。利点と欠点を冷静に比較した結果、勝算の方が高いと判断できるのであれば起業しない手はないのだが、生じる確率の方が低いリスクにばかり目を向け、事を始めない言い訳作りに走る姿勢が起業の足かせとなっているケースを何度も目の当たりにしてきた。

 失敗を恐れてしまう最大の理由は、資金ショートを起こし路頭に迷うかもしれないという不安感からであろう。ほとんどの方がお客さまも財産もない状態から一発奮起するわけだから、当然といえば当然だ。これをぬぐうためにも、起業当初は経営者も主体的に手持ち資金の状況把握を適宜行うことが望まれる。資金繰り表を作成し、今いくら資金が足りないのか、このまま事業を続けるといつ資金不足となるのかを分析するのだ。資金調達が必要なタイミングも事前に押さえておけるため、金融機関等への早めの対応も可能となる。開業後も自社の置かれた資金の状況を冷静に分析し続ければ、信念が無謀に変わっていないかチェックすることもできる。失敗を過剰に恐れることなく己を客観視する仕組みを作ることで、心の平静と強い意志を持ち、困難に立ち向かい続けることができる。以上の資金分析を皮膚感覚にまで落とし込むことができたら、事業家としてもしめたものである。

 なお事業が拡大し従業員数も増えると、この資金管理業務は経営層から経理・財務等の管理部門へ委譲されることになる。上述のとおり、資金管理は会社経営の根本にかかわる重要な機能であるが、時折営業部門にばかり人材を投入し管理部門を手薄としている会社を見受けることがある。経営者目線の分析・数字作りをこなす能力のある管理部門を整備してこそ、会社は骨太な利益体質となり得る点もここで合わせて申し添えておきたい。







(上毛新聞 2010年7月31日掲載)