視点 オピニオン21
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バイオリニスト  小田原 由美(榛東村新井)



【略歴】バイオリニスト。岡山県出身。国立音楽大卒業。元群馬交響楽団団員。室内オーケストラ「カメラータ ジオン」代表。「若い芽を育てる会」理事。


音楽の素晴らしさ



◎新鮮な“こころの酸素”




 群馬を本拠地に活動している室内オーケストラ「カメラータ ジオン」は今年創立8年になります。少人数での室内楽コンサートも開催し、群馬はもとより全国各地で演奏活動をしています。この名前は、カメラータ(仲間たち)ジオン(慈音)=「音を慈しむ仲間たち」という意味を持っています。8年も続いたのは、聴いてくださる方、ボランティアスタッフをしてくださる方、経済的基盤も無い無謀ともいえる活動をあらゆる側面から支えてくださる方々のおかげです。心より感謝申し上げます。

 ジオンのリハーサルでは、全員からさまざまな提案や意見が飛び交います。良い音楽を創(つく)りたいとの情熱からです。我を通すわけではありません。丁寧で納得のゆく音楽づくりをし、音楽の素晴らしさを一人でも多くの方に伝えたいとの願いからです。共演するソリストたちは「ファミリアな雰囲気で伸びやかに演奏できるし、ジオンの聴衆が素晴らしい」と言ってくれます。ピアノの巨匠・ハイドシェックも、「四季」のスペシャリストのアゴスティーニも、名チェリスト・ワレフスカも群馬が大好きです。短期間の滞在ですが、皆さん散策して、美しい利根川や雄大な山々、群馬の豊かな自然を堪能しています。

 県庁脇から、グリーンドームに至る道は、初夏から緑のトンネルです。蒸し暑く倒れそうな真夏でもここでは息を吹き返すことができます。両脇からのびたケヤキの枝でおおわれ、空気が緑色になっていて、新鮮な酸素をたっぷり吸えるからでしょう。クラシック音楽とは、生きてゆくのに不可欠なこの新鮮な“こころの酸素”なのです。

 前橋のある高校の講演会に講師の方とうかがい、バイオリンを弾かせていただいた時のこと。高校生たちは予想もしないほど、静かに聴いてくれました。アンケートには、「今までロックばかり聞いてきたが、これからはクラシックも聴きたい」「心が落ち着いた」「ぜひ、また聴きたい」等々。心が落ち着く、勇気がわく、楽しくなる、響きに包まれてなぜか涙が出る等、これらはすべてこころの浄化作用です。

 バッハ、モーツァルト、ベートーベンをはじめとする音楽がなぜ現代でも演奏され、愛され続けるのか。“こころの酸素”だからです。音楽は、こころに痛みを持っている方にこそ必要です。生まれたての新鮮な生の響きに包まれて生き返ってみませんか? クラシック音楽は難しいものではありません。音楽会は堅苦しい場所ではなく、演奏者と聴衆が一体となって音楽を共有する場所です。どうぞ、気軽にお出かけください。響きに包まれて自分の心を解き放つことができる時空間です。






(上毛新聞 2010年8月5日掲載)