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下仁田自然学校運営委員  小林 忠夫(埼玉県坂戸市)



【略歴】長野県出身。東京教育大卒。新潟県内の中学校、高校で教諭を務めた後、地学団体研究会事務局に勤務。下仁田自然学校には創立準備当時から携わっている。


下仁田自然学校から(5)



◎集団で地質の謎に挑む




 下仁田自然学校は創立以来10年、研究(創造)・普及(学習)・条件づくり(活用)の3つの目標をかかげ、その統一をめざして活動を進めてきました。

 今回は、第1目標の「研究」にまつわる話題です。

 「地質の宝庫」といわれている下仁田に、じっくり腰をすえて未解明な地質の謎解きをしようと、下仁田自然学校に集まった有志は、専門分野ごとに研究グループを結成し、集団で研究を進めてきました。

 専門の研究機関に所属する者はほとんどおらず、研究に専念できる時間も金もない者ばかりですが、年に4~5回は調査日を設定して取り組んできました。

 多くは、金曜日の夜に集合して、自然史館で合宿(教室で雑魚寝)し、自炊(同じ釜の飯を食べ)しながら、土・日に現地調査を実施するという日程です。

 それぞれの研究グループは、専門家から、地質の調査は初めてという初心者まで、年齢も70代から10代の大学生までの、数名から10数名の集団です。夜遅く、みんなで調査計画をたててから、まず前夜祭のコンパです。そして、翌朝から前夜の計画にそって、3人~5人組の班に分かれて現地調査に入ります。

 専門家と初心者が一緒になって進める調査は、双方がお互いに学びあう絶好の場になります。専門家は初心者の素朴な疑問に本質を見出し、初心者は専門家から観察の極意を伝授してもらいます。そして、異なった視点の観察眼が、新たな発見の確率を高めます。

 知識や経験の違いはありますが、上下関係のない対等な調査員として一緒に活動することで、班内の観察が深まり、成果を共有することができるのです。

 集団によるこの研究法は、「団体研究」と呼ばれ、地学団体研究会(地質学の学術団体)が、日本で独自に生み出した方法で、60年以上の歴史があります。

 下仁田町のように、地質構造が複雑で変化に富み、そのうえ、けわしい山地が多く、一人歩きが危険な地域では、この団体研究はとくに有効な方法です。

 これまでの10年間の研究成果は、現場写真を多数挿入し下仁田自然学校文庫5「下仁田町と周辺の地質」としてまとめました(B5判120ページ。頒価は送料込みで1400円。申し込みは下仁田町自然史館、電話0274・70・3070)。

 10年がんばりましたが、下仁田の地質の謎解きはまだ緒についたばかりです。わたしたちは、時間が許す限り、下仁田町に集い、団体研究を続けます。

 調査は、どなたにも開放されています。「地質の宝庫」で、一緒に謎解きを楽しみませんか。






(上毛新聞 2010年8月6日掲載)