視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
音曲師  柳家 紫文(東京都杉並区)



【略歴】高崎市出身。1988年、常盤津三味線方として歌舞伎座に出演。95年、2代目柳家紫朝に入門。都内の寄席に出演中。著書に『紫文式都々逸のススメ』など。


少ない地元情報



◎地域文化衰退の危険




 群馬に住んでいると、テレビ、ラジオは東京のキー局がすべて見られます。東京と同じ情報が入ってくる。それは他の地方の人たちに対して群馬出身者の自慢であり、「群馬は地方じゃない」という意識になっています。

 しかし東京の情報は入っても、地元の情報が入って来にくいのです。群馬に決定的に足りないもの、と言うとちょっと大げさですが、地元の情報が少ないように思えるのです。

 先日、講演の仕事で秋田県の由利本荘市に行きました。朝、ホテルのテレビをつけるとワイドショーで、その本荘の駅前商店街を取材して歩いている様子が映っていました(地元と言ってもフジテレビ系です)。各地の放送局は、地元の情報をたくさん流します。コンサートや舞台、映画の情報なども流しますし、CMでもイベント、コンサートの宣伝をしていたり。テレビをつければ地元の情報が当たり前のように流れています。

 私も、例えば新潟に行けば夕方のワイドショーで公演の宣伝をさせてもらったりします。翌日の公演には「昨日テレビで見ました」と言ってたくさん来てくれます。新潟だけではありません。各地のラジオ局、最近なら京都KBS、茨城放送、帯広のFM等の生放送に出演させてもらい、それで少なからずの集客ができました。

 地元の高崎ではどうか。悲しい事に新潟の公演のほうがお客が来るし、認知していただけるのです。

 群馬では東京の情報が簡単に入っても、地元の情報はなかなか入らない。情報がなければイベントやライブがあっても行けない。人が来なければそういうイベントやライブなどもやらなくなります。そうなると街も文化もどんどん衰退してしまいます。

 数年前、富山で衰退著しい旧市街に新しいショッピングモールがオープンした時、地元のテレビ、ラジオ、新聞で盛んに宣伝していました。果たして…当日は大変な人出でした。

 地元高崎でも屋台村ができたり、まちなか再生にいろいろな努力がなされているようです。その努力が大きく実るためにもメディアでの露出が必要です。夕方のテレビが、屋台村で楽しそうに飲食している光景を流せば「行ってみようか」となるわけです。良いモノであっても当たり前の情報だけでは今、なかなか人は動いてくれません。

 芸人があっちこっちで見聞きしただけの考えですが、「まちなか再生」だけでなく「コミュニティー再生」をするためにも、地元の情報を発信する群馬なりのメジャーなメディアを作っていかなければならない時期に来ているのではないかと思います。そうでないと“情報後進県”になってしまう危険があります。








(上毛新聞 2010年8月11日掲載)