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前・前橋地方気象台長  元木 敏博(東京都板橋区)



【略歴】青森県生まれ。気象大学校卒。札幌や奄美大島の気象官署、気象衛星センターに勤務。熊本地方気象台長などを経て、10年3月まで前橋地方気象台長を務めた。


観測データの大切さ



◎質を高めて次世代に




 群馬県の地上気象観測は、1896年12月1日に現在の前橋市昭和町に設置された県営の前橋測候所で開始されました。1939年11月1日には、国営の前橋測候所へ移管し、57年9月1日には前橋地方気象台となっています。こうして、前橋では100年をかなり超える観測値が得られています。

 近年、ゲリラ豪雨と称される短時間強雨の長期的な変化について、社会の関心が高まっています。短時間強雨の発生は増加傾向にありますが、地球温暖化に周期的な気象変動が重なっている可能性が指摘されています。こういった現象を正確に把握し、地球温暖化の影響などの予測精度を向上させるためには、長い期間の観測データが必要です。また、調査を進めるにあたっては、計算機処理に適したデータの数値化(デジタル化)と、きめ細かな品質管理が大切です。

 世界気象機関(WMO)では、各国の気象機関に残されている観測データの発掘と、数値化を呼びかけていますが、非常に困難を伴うため遅々と進んでいません。これは、100年もたてば、いろいろなことが大きく変わるからです。日本では、観測時刻は地方ごとに異なる地方時から京都時、日本標準時(東経135度を通る時刻)と変わり、1日のとりかたも、国際標準時で0時(日本時間で朝9時)から24時間の時代もありました。気圧の単位は水銀柱のインチからミリメートル、圧力のミリバール、ヘクトパスカルに、気温の単位は華氏(かし)から摂氏(せし)に変わりました。数値化は、単純に記されている数字を入れれば終わりではありません。現在の単位に換算し、現在の観測方法で観測したどのような値になるかという補正や、観測所の移転があれば、その影響の評価が必要です。加えて、観測記録は手書き記入で(多くはマイクロフィルムに保存)、読みとりにくい数字もあります。そこで、気象庁職員が気象専門家として、きめ細かな品質管理という地道な作業を行っています。

 気象庁では、2005年10月に、前橋を含め長期間の気象観測が実施されている全国51カ所の気象官署について、1901年からの日降水量データを公開しました。最初から数値化データのアメダス(地域気象観測網)は74年に開始されていますが、アメダスが登場する前の委託気象観測も数値化が検討されています。

 気象庁の数値化データは、高密度・高品質で、気象の長期変化、歴史的な気象災害の再解析に限らず、地域特性の調査の基礎資料として有効です。また、他機関で実施された観測資料の発掘では品質評価の基本データの役割を果たし、その資料を高度に利用できるなど、気象の正確な解析と、予測精度の向上に役立つことを願っています。







(上毛新聞 2010年8月18日掲載)