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第一高等学院北関東・東北・北海道エリア長  篠原 裕(前橋市関根町)



【略歴】渋川市出身。第一高等学院高崎校長を経て、今春から現職。不登校生の支援や高卒サポート、高卒認定試験の指導を行う。県ニート対策会議委員も務めた。


ひきこもりへの対処



◎親子の信頼づくりから




 仕事や学校に行かず、家から出ない、コンビニや趣味の用事だけ外出する状態が6カ月以上続いている「ひきこもり」の人が全国で約70万人に上るとの推計が内閣府から発表されました。ひきこもっている人やそのご家族は、心の闇の中で、毎日を送っています。その数を前橋市、高崎市の人口と比較すれば、この国の将来が闇に包まれつつあることを感じます。

 ひきこもりのきっかけは、「職場になじめなかった」「就職活動がうまくいかなかった」が「病気」を除くと、2割以上(複数回答)で最も多く、高校教育に携わる者としては、大学や専門学校への指導の先送りをしていなかったか、自問自答せずにいられません。雇用対策を含めた生きやすい社会のあり方と、家族関係をベースとした本人の生き方の二つが大きな問題であり、社会、親、本人の3者が変わらなければならないでしょう。

 ひきこもりの人がいるご家族の共通点は、親の愛情を本人が感じていないことです。子どもを大切に思う気持ちを相手が感じるように伝えなければ、子どもには分からないということを親は理解していない。そこが一番難しい問題ですが、無条件に愛情を子どもに注ぎ、その思いを伝えて本人の不信感を無くすことが出発点です。

 ひきこもっている本人だけでなく、その親もストレスの強い状態なので、親は、子どものストレスが和らぐよう接しながら、親自身の気持ちも立て直す必要があります。「育て方が悪かった」と親が自分を責めれば責めるほど、本人に穏やかに接することは難しくなります。親は自分を責めないことを心がけ、自分のことを受け止めてくれる人に話を聴いてもらうのもいいでしょう。もちろん、子どもと信頼関係があれば、子どもにとっては親がその相談相手になります。

 本人には、できそうなことからやってみることを勧めています。外に出られるなら歩くことから、掃除、洗濯、料理も適当に始めて、洗剤や調味料を買いに出掛けるように少しずつやってみます。

 小さな行動体験ができたら、結果に関係なくほめる。親が本人を、本人が自分をほめてください。その繰り返しにより、本人の潜在意識にある否定的な考え方を少しずつ壊していきます。そして、「自分にもできる」の潜在意識が芽生え、行動する意欲がわいてきます。否定的な考え方を完全に消せなくても、うまくできない自分を受け入れることができれば、自分や周りの人を長所側から見られるようになり、人間関係は好転していくものです。

 苦しんだ歳月は長くとも、生きることのすばらしさを実感することにつながればよいのでは。肩の力を抜いて始めましょう。







(上毛新聞 2010年8月23日掲載)