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自然環境研究センター上席研究員  青木 豊(前橋市南町)



【略歴】桐生高、日本大農獣医学部農学科卒。同大大学院農学研究科農学専攻博士前期課程修了。藤岡北高や勢多農林高などの教諭を務め、2007年4月から現職。


加害鳥獣捕獲のために



◎深刻な狩猟者数の減少




 野生鳥獣による農作物への被害に対して、被害農家が行政の協力を得て、一生懸命に被害対策を実施しても、津波のように押し寄せてくる野生鳥獣の波は防ぎきれないことがあります。

 さまざまな対策を講じても、防ぎきれない被害に対しては、加害鳥獣の捕獲を実施することになります。

 このような作業を行えるのは、狩猟免許を有し、専門的な知識と技能をもった限られた人たちです。これまでは、趣味で狩猟を行ってきた狩猟者にこの作業をボランティアとしてお願いしてやってもらってきました。しかしながら、あくまで狩猟は趣味の世界のものであり、それで生計を立てている人はいません。他に生業をもつ人が、休日返上で頑張っているというのが実態です。危険を伴う作業でありながら、「事故と弁当は自前」という状況下で頑張っているのです。さらに狩猟者の高齢化と減少が著しく進み、今では有害鳥獣捕獲等の対策を実施するために必要な捕獲隊を編成できない猟友会も地域によっては出始めています。実に平均年齢65歳を超える人たちが、地元農家の危機を救うべく活動してきたわけですが、その限界が近づいてきています。

 このような状況ですから、多くを期待されても必ずしもその期待には応えきれないことになります。せっかく行政が頑張って税金から対策費を捻出(ねんしゅつ)しても、捕獲という結果につながらないことが生じます。被害が発生するのは、収穫間近の一時期ですが、先にも書いたように狩猟者が有害鳥獣捕獲隊員として出動できるのは、休日がほとんどです。そうなると、お金をかけたけれど被害も防げず、捕獲もできないという結果が生じてしまいます。これをいさぎよしとせず、費用を受け取らないという猟友会もありますが、すべてがそういうわけにはいきません。結果から見れば、お金だけ受け取って、なんら成果を残さないということになり、第三者から見たら猟友会は税金泥棒のようにも見えてしまいます。予算を確保した行政側にとっても、費用対効果を考えれば、同じような事業を継続することは困難になってしまいます。

 私自身狩猟者であり、ここまでは狩猟者の実態を踏まえて、猟友会側の視点で書いてきましたが、残念ながら、この問題をわが身の問題として多くの猟友会が考えていません。

 「とりあえず、お金さえもらえればいいや」とか「仲間を増やしたり、若い者を入れると取り分が減る」「有害鳥獣捕獲で鳥獣を捕獲すると狩猟でとる獲物が減って困る」といった意見が存在するのも事実です。

 唯一、現段階で対応可能な専門技術者である狩猟者は、せめて費用に見合った成果を残せるように努力しなければなりません。







(上毛新聞 2010年8月27日掲載)