視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
群馬大大学院工学研究科教授  宝田 恭之(桐生市菱町)



【略歴】群馬大大学院修了。東北大の研究所などを経て群馬大工学部教授に。同大工学部長を2005年から、同大大学院工学研究科長を07年から09年3月まで務めた。


学生野球への提言



◎選手は一兵卒ではない




 昔、少し野球をやっていたので、野球のことはいつも気になる。今年も甲子園で熱戦が繰り広げられた。甲子園でのプレーを夢見て、日夜練習に励んできた高校球児にとっては晴れの舞台であろう。出場までの努力は大変なものである。私が学生だった時、同じ下宿に桐生高校のバッテリーがいた。彼らは本当に毎日練習に励み、休みは元日だけだった。それでも当時作新学院にいた江川卓投手の球はかすりもしなかったとのことである。

 近ごろスポーツも多様化し、サッカー、ゴルフ等に押されているせいか、プロ野球のテレビ放送も少なくなった。野球部を選ぶ生徒も減少しているようである。野球好きの私にとっては、寂しい限りである。野球をもっと楽しく魅力的にできないであろうか。

 現在、エンゼルスにいる松井秀喜選手が甲子園に登場した時、5打席連続の敬遠四球にあったことがある。観客からは大ブーイングであった。試合後、その投手は泣きながら、『勝負したかったけど、監督さんの指示だから仕方なかった』と言っていた。私はこの場面を釈然としない気持ちで見たことを覚えている。

 勝つための作戦としては仕方がないが、監督一人の判断で選手の意向を無視したやり方に疑問が残った。現在の学生野球で頂点を極めるようなチームには専門の監督、コーチがいる。専門家の指示で練習メニューが用意され、技術が磨かれ、試合が行われる。勝利インタビューの監督を見ていると、監督が総大将であり、選手は一兵卒である。「監督の指示に忠実に従う部員が優秀な野球部員である」とのことであるらしい。言語道断である。選手は首から下だけが鍛えられ、首から上(頭)は監督に委ねられている。学生野球は教育の一環であることを忘れてはいけない。

 魅力ある学生野球にするための提案をしたい。簡単である。「試合中、ベンチに学生以外は入れない」としたらどうか。監督やコーチを生徒にさせるのである。事前に作戦面でも生徒を鍛え、生徒主体の試合をさせる。もちろん、練習では専門家の指導を頂くことに問題はない。野球部員が情報収集、戦力分析、作戦立案、作戦実行なども行うことになる。こうなると、運動が苦手の生徒も野球部員として活躍できる。場合によると女子生徒の監督も登場するかもしれない。

 最近、新入社員の多くが「指示待ち族」であり、指示されればある程度の仕事はこなすが、何も言わないと何にもしないとの指摘がなされている。これからの人材育成において、頭でっかちになることもナンセンスであるが、体力100%もいただけない。自らの考えで行動することの重要性を強く認識しなければならないと思う。







(上毛新聞 2010年8月28日掲載)