視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
前農業・食品産業技術総合研究機構理事・中央農業総合研究センター所長
                               丸山 清明
(茨城県牛久市)



【略歴】前橋市出身。東京大農学部卒。北陸農業試験場(稲の育種)、作物研究所長、北海道農業研究センター、中央農業総合研究センター各所長などを歴任。農学博士。


農作物の品質とは



◎考えたい消費者の立場




 筆者は農業技術者なので、自分たちの開発した技術で、農家が少しでも元気になるように努力してきた。農家が元気になるためには、収入を増やすことが第一である。

 農家の収入は、収穫量に販売単価を掛けた金額から経営費を減じて得られる。収穫量を増やすためには単収の向上が重要だが、それと同等に、販売単価を増やすために品質向上が欠かせない。

 消費者の立場で考えてみよう。店頭で10キロ入りの米を消費者が見たとき、その米が多収穫であったか否かは、わからない。価格と品質(食味、それも品種や産地のブランド)で買うか否かを決定する。多収穫は農家にとって重要な形質であるが、消費者にとっては品質の方が重要なのであり、多収穫により価格が下がったときだけ、消費者は恩恵を得る。

 農産物の品質とは何かを考えるため、手元にある国語辞典をひいてみた。「品物の質」(新選国語辞典)、「(良不良が問題になる)品物の性質」(新明解国語辞典)、「品物の性質」(広辞苑)。これでは何の参考にもならない。

 しかし、品質管理については、「工場などで、製品の品質を一定に保ち、あるいは向上させるために使う経営手法」(新選国語辞典)などとある。すなわち、品質は、一定で、バラツキが少ないことが要求されている。収穫したジャガイモも、大中小に分けて小袋に入れれば、消費者は買いやすい。

 また、扱いやすいことや、食べやすいことも品質の一つとして見逃せない。大きすぎるスイカのかわりに、最近、食味が大きく改良された小玉スイカがスーパーにたくさん並ぶようになった。大きすぎると冷蔵庫で冷やせない。最近のジャガイモの品種は芽のくぼみが浅く、剥(む)きやすくなった。こういった観点からの技術開発も進んでいる。

 そして、決定的に重要な品質として、色などの外観、味、香り、歯触りなど、五官(目、耳、鼻、舌、皮膚)に関連した品質がある。このうち、耳に関しては、以前、騙(だま)されて九州産の「南極の氷」を買ってロックアイスに使っていて、それは解けるときにピチピチ音がする。結構楽しいので、立派な品質であるが、食物に関しては事例が希(まれ)である。

 五官に訴える品質のほかに、栄養、機能性、消化性などの健康に関する品質も重要である。また、新鮮であること、毒物が混ざっていないこと、汚れていないことなども品質である。一時、土付きの根菜類がもてはやされたが、台所が汚れるのですたれた。消費者が買わなければ農家は収入を得られない。お客様は神様なのである。そのことを肝に銘じて、農家は良質の農作物を出荷する必要がある。






(上毛新聞 2010年9月2日掲載)