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弁護士  橋爪 健(高崎市江木町)



【略歴】高崎高、中央大法学部卒。1999年度群馬弁護士会副会長。同弁護士会人権擁護委員会委員長などを務め、2010年度は刑事弁護センター委員長。


裁判員裁判の弁護



◎綿密で迅速な準備必要




 裁判員制度が昨年5月に施行され1年3カ月が経過しました。群馬県では施行後本年8月11日までに前橋地方検察庁が起訴した対象事件は39件、前橋地方裁判所が判決を下した件数は19件です。残りの20件は公判前整理手続など裁判に向けた準備活動が行われています。毎週当たり前のように裁判員候補者が裁判所に呼ばれ、裁判員が選任されて粛々と公判が開かれ、判決が下されています。

 私もベテランの先輩弁護士と2人で1件裁判員事件の国選弁護を担当しました。情状量刑のみが争点の事件でした。とにかく公判に向けた準備がすべてであること、冒頭陳述、尋問、最終弁論では短く要点を絞り検察側の主張との違いを際立たせること、また複数弁護人が選任された場合のチームワークが大切という感想を持ちました。

 裁判員を長期間裁判に拘束することは無理です。公判は迅速で充実したものでなければなりません。そのために、公判前整理手続であらかじめ争点や証拠が整理されて審理計画がきちんと立てられています。それで裁判員がすぐに公判に臨めるようになっているのです。

 私の経験に戻ります。検察側の主張する事実をチェックするため証拠開示制度を使って幅広く証拠を入手し検討しました。また証拠書類は全文朗読が原則です。被告人が作成した長文の書面は、裁判員の心の琴線に触れそうな箇所を厳選して請求しました。被告人や情状証人との打ち合わせは綿密に行って、尋問リハーサルを繰り返しました。裁判員を飽きさせないように、尋問時間を予定より切り詰め、関心を呼びそうな事項に焦点を当てて聞きました。

 私担当の冒頭陳述は評価を交えないように注意し、正面に出て、紙を読まずに裁判員の目を見るよう心掛けました。時間は約8分でした。最終弁論は約10分。先輩弁護人が被告人に有利な点をずらりと列挙したうえ、特に重要な情状事実に時間を割いて諄々(じゅんじゅん)と主張しました。判決が出た後は、張りつめていた緊張が一気に解け、大仕事を終えたという充実感を得ることができました。

 裁判員事件の弁護はこれまでと異なります。被疑者段階からの捜査弁護の重要性が増し、証拠開示に基づく検察官主張事実の検討、弁護側主張の組み立て、公判前整理手続への対応など弁護活動の中心点が前倒しとなっています。これまで以上に綿密で迅速な準備が弁護活動に不可欠となっているのです。法廷弁護技術の向上も重要な課題です。

 弁護士会では経験報告会や研修を充実させるなどして裁判員事件の弁護活動のあり方、問題点などを洗い出し、被疑者、被告人が十分な弁護を受けられるよう対応しています。






(上毛新聞 2010年9月3日掲載)