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NPO法人こころの応援団代表  千代田 すみ子(みなかみ町猿ケ京温泉)



【略歴】東京都生まれ。特養老人ホーム勤務や農業を経験。新潟県中越地震でのボランティア活動などを経て、2005年、本県に移住。心の病のある人の支援活動に取り組む。


自殺対策



◎まず「気づき、聴く」から




 私たちが暮らす日本では、毎年自殺者が3万人を超え続け、決して他人事ではなくなってきています。そんな中、政府や地方自治体ではさまざまな角度から、対策を考え実行していますが、依然として減少傾向をたどりません。

 そこで、私たち「こころの応援団」としても昨年より自殺対策事業に取り組み始めました。

 私たちが唱える自殺対策は「気づき、聴く」ことです。悩んでいる方に気づき、その方の話を聴く。ごくごくシンプルなことです。ですが、このシンプルな「聴く」という行為ができそうでできないのです。

 日ごろ、私たちは何げなく話を聞いています。その時、自分の価値観や常識というフィルターをかぶせ、自分が受け取りやすくしていることが多いようです。その方が、安心して聞くことができるからです。

 また、たとえそのフィルターを通したとしても犯罪や自殺などの常識的に許せない話には、聴くより前に、拒否の姿勢をとってしまいがちです。そして、聴くこととは対極の、アドバイスを与えてしまうのです。「死にたい」と聴かされた時に「そう、死にたいほどつらかったのね」とその方の気持ちを受け取ることは、死にたい気持ちの背中を押すことではないのです。逆に「死ぬなんて考えちゃダメよ」と言う方が、より孤独に追いやります。

 私たち「こころの応援団」の自殺対策の事業に参加してくださった方々は、それに気づいてくださったと思います。まずは「聴く」ことができない自分に気づくことからが始まりです。

 悩んでいる方の話を上手に聴けなくてもいいのです。上手でなくても、一人でも多くの人が「悩んでいる方の立場に立って、無条件・無批判にその方の話を聴く」。ただこれだけでいいのです。

 しかし、人は優しければ優しいほど、悩んでいる方の悩みを早く解決へと導いてあげたいと思われるようです。ですが、悩んでいる方の感情を置き去りにしては、決して解決へとはつながりません。

 特に、自殺を考える方々の悩みは一つとは限りません。容易に解決できないことが多く、その上、うつ状態にあると言われます。その状態の時には、物事を順序立てて処理する能力が低下しているはずです。そして、自信を失っているはずです。そんな時だからこそ、悩みを、気持ちを否定せずに聴いてくれる誰かがそばにいてほしいのです。聴いてくれる誰かがそばにいるだけで、孤独から解放されるかもしれません。聴いてくれる誰かがいれば、問題を解決する勇気が持てるかもしれません。

 皆さんもどうか、その誰かになってください。それが自殺対策のスタートだと私は思います。







(上毛新聞 2010年9月10日掲載)