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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区)



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。



事業を譲るとき



◎納税上有利な選択を




 事業を興してからはや数十年、バブルから不況までいろいろ経験し、そろそろ誰かに事業を譲って落ち着きたいとするオーナー経営者も昨今は多いであろう。ご子息や従業員を後継者とする場合もあれば、第3者へ譲ることもあり得るし、身を引くパターンはいろいろある。

 オーナー経営者が事業や会社を手放す方法としては、売却や贈与があり、広い意味では相続、事業撤退・清算も挙げられる。いずれかの方法をとる日は必ずやってくる。その際に注意すべきは税金の取り扱いだ。事業がもうかっている場合は、その分だけ高値で会社や事業を譲れるわけだから、いずれの方法でも往々にして税金が生じる。例えば売却の時には譲渡所得税を納めることになり、贈与や相続の時も事業や会社の価値に応じて贈与税・相続税を納付することになる。事業のもらい手が誰もおらず、会社を清算せざるを得ない時ですら、残った財産の一部に対して所得税がかかる場合がある。

 事業がもうかっていない場合であっても、これを譲る際に税金がかかる恐れがある。赤字だから税金は生じないというのは大きな誤解だ。贈与税や相続税は、事業や会社の価値自体に対して税率を乗じて計算するため、少しでも価値があれば税金が生じてしまうケースもあるというわけだ。

 オーナー経営者は日常の経営を行っていくなかで法人税や消費税を支払い、自らの報酬には所得税や住民税が課される。これに加え、事業を譲る際には以上のとおりあらゆる税金を納めることになる。このように、オーナー経営者はいろいろなタイミングでさまざまな税金に出合う。ただでさえ経営、営業から財務、管理、人事まで多岐にわたる分野に目配りする必要があるのに、税金面も常に気にしなければならない。一般的な会社勤めの方であれば、人生で関係する税金はせいぜい所得税、住民税くらいであることと比較すると、悩ましい点が多い。

 オーナー経営者が会社を譲る際の税金負担を少しでも軽くする手はあるのか。例えば贈与や相続時に関していうと、税金計算の上で会社の価値を合法的に低め節税を行う手が挙げられる。会社が稼いだお金を誰かにただで与えることにより会社の価値を低めるという意味ではない。税金計算上、会社の価値を算定する過程ではいろいろな計算式が選択できるため、オーナー経営者にとって納税上有利となる方を選ぶ方法だ。そのためには相続税法の知識だけではなく、デューデリジェンスや組織再編税制という複雑な考え方を活用する必要もある。

 オーナー経営者は事業を興してから誰よりも骨を折ってきたのだから、以上の節税策を用い、身を引くときくらいはすっきりした気分でゆきたいものだ。







(上毛新聞 2010年9月11日掲載)