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NPO法人「キャリア倶楽部」ユースコーディネーター  中澤 由梨(前橋市粕川町)



【略歴】前橋女子高、筑波大卒。メーカーを経て、2007年からぐんま若者サポートステーションに勤務。群馬、埼玉でニートなどの若者の就労支援に携わる。



就労の継続



◎環境に働きかけよう




 他者に対して「~だったらいいのに」と思うことは、誰しも経験があることだろう。「そんな言い方しなくたっていいのに」「もっと優しくしてくれればいいのに」など、都合良く考えてしまうこともある。生活を共にする家族にはもちろん、一日の大半を過ごす職場でも「もっとこうだったらいいのに」と不満に思うことは多いのではないか。

 「上司がいい人だったらよかったのに」「周りの人が良ければ、やっていけるのに」。就労相談で時々耳にする言葉だ。たまたま上司が意地悪な人だったから、たまたま周りの人が冷たかったから、うまくいかなかった。でも、同じ価値観の上司だったらやっていける。親切な人のいる職場だったらやっていける。そんな風に主張してくることがある。

 上司や周囲がいい人だったら何よりだ。だが、そうはいってもそれは自分では選べない。人との出会いは偶然であり、どんな人と一緒に仕事をするようになるのかなど、分からないものだ。与えられる環境は偶然そのもの。全く価値観の違う人が上司になる可能性もある。

 しかし、いい人だったら続くし、合わない人だと続かないというのでは、自分の身の振り方を偶然にコントロールされることになってしまう。確かに一緒に仕事をするのが本当に難しい方もいるだろう。どうしても合わない人というのもいる。ただ「運が良ければうまくいく、運が悪ければうまくいかない」と、すべて環境に左右されるために、どの場所にいってもこのパターンで辞めることを繰り返してしまうこともある。

 このパターンに陥らないためには、人からの影響に右往左往するだけでなく、「自分から影響を与えることも可能なのだ」という感覚が必要なのではないだろうか。自分にとって周囲の人がいい人でなかったときに、辞めるのがたった一つの選択肢になってしまっては、働いていくのが難しい。相手への接し方を変えてみる、うまく距離をとる、周囲の人に相談して作戦を練るなど、自分の工夫や働きかけの気持ちが大事だろう。

 こうした選択肢を見つけるために必要なのは「自分が周りの環境に働きかけができる」という感覚のように思う。就労までのステップの中で自分は周囲に働き掛け、状況を変えようとする力を持っているというコントロールの可能性を感じられる機会があるといい。家族関係、友人関係の中でそうした経験が1回でも多く積めることが望ましい。

 「違う価値観の人同士が仕事をするから、どう対応しようかと、もがいて成長するんだ」とは職場の先輩の言。価値観が違うのなら、どうやって折り合いをつけるか、工夫や努力をする。違いを否定的にばかりとらえないのも、継続就労に大事なことだろう。






(上毛新聞 2010年9月12日掲載)