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実践女子大教授  大久保 洋子(東京都江戸川区)



【略歴】富岡市出身。実践女子大、同大学院卒業。博士。管理栄養士。都立高校、文教大短大部、目白大短大部を経て実践女子大教授。学部長。専門は調理学、食文化研究。



かんぴょうとゆば



◎垣間見た日光の食文化




 今年の夏は炎暑という言葉がぴったりの暑い暑い夏でした。8月の末に栃木の食文化を研修する目的で日光・鬼怒川を駆け足で巡ってきました。主に見たのはかんぴょうとゆば。かんぴょうはご存じのように、瓜(うり)科の夕顔という植物の実をひも状に剥(む)いて干したものです。その夕顔の実は西瓜(すいか)にそっくりといってよいでしょう。西瓜特有の縞(しま)模様はないのですが、西瓜と間違えて盗む話を遠い昔に聞いたことがあります。

 炎天下の夕顔畑で生産農家のお話を聞きました。前日収穫して次の日の朝3時に剥いてつるすそうです。天日で干すためには早朝の作業が不可欠で、大変な作業です。群馬県ではほとんど見ることがなく、現在の生産量は栃木が日本一になっています。ご多分にもれず輸入品が8、9割を占め、国産品は貴重品です。

 かんぴょうは何と言ってもおすしのかんぴょう巻きでしょう。あとは甘辛に味付けする煮物が主流でしょう。福袋煮の口を縛るためにもかんぴょうは不可欠です。日本料理を特徴づける材料がここでも輸入頼みという現状です。

 生の実のふすべ煮をごちそうになりました。見たところ冬とうがん瓜かと思うのですが、テクスチャーが違います。とてもおいしいので普及させてほしいと思いましたが、生の夕顔は市場には出ないとのこと。多分大きすぎるのと切り売りが難しいからかもしれません。かんぴょうを粉末にして加工品が作られていました。かんぴょううどん、かんぴょうアイスなどです。

 夕顔は源氏物語に登場することでも分かりますが、古くから知られています。花の観賞から始まり、実の皮を利用したふすべ細工がひょうたんのように発達しましたが、現在はあまり見かけません。

 次にゆばについてJR日光駅のレトロな駅舎で聞きました。京都は「湯葉」と書くが、日光は「湯波」と書くのだそうです。ゆばを引き上げるとき1枚にするのは京都で、日光では二つ折りのように重ねて引き上げるのだと聞き、そのようなこだわりがあることに驚きました。乾燥ゆばの名称も島田ゆば(日光)と蝶ゆば(京都)のように差別化が図られています。

 ゆばは豆乳を加熱して表面に凝固させたものです。濃厚なチーズのようで、何とも言いようがない味わいを出します。大豆の食材性の豊かさを感じさせるものです。この加工品作りには水質の良さが要求されます。日光の水と東照宮という文化遺産を背景に発達した食文化を垣間見ることができました。

 日本各地に大切にしたい先人たちの努力の賜(たまもの)は時間をかけて作り上げたものが多いのです。時間をかけることとかけないことを住み分けることで良い文化を作り伝えていくことの思いを感じました。







(上毛新聞 2010年9月17日掲載)