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いせさきFM放送取締役放送局長  高橋 忠文(伊勢崎市連取町)



【略歴】東京工科大メディア学部卒。大阪の証券会社社員、FMたまむら放送局長を経て2008年11月、いせさきFM放送の開局と同時に取締役放送局長に就任。



放送の新しい活路



◎必要とされる情報を




 フランスやアメリカではたくさんの局が生まれている。例えば、フランスには刑務所の真ん前に受刑者に向けた放送局がある。そこでは、家族からの「子供たちは元気だよ」「父ちゃん、あと1年、頑張ってね」といった特定の人物にあてたメッセージを放送している。つまり、本当に求められた放送が行われているのだ。

 現在、群馬県でもFM放送局がいくつか聴ける地域がある。しかし、聴いてみると、かかっている曲はどこも、ほとんど同じよう場合がある。それは、音楽だけの話ではなく、地域の人たちにとって本当に必要な情報が、今のラジオにどれだけあるのだろうかということにもつながる。

 そんな中で、地域で必要としている人に対して本当に必要な放送を行っていけるのがコミュニティー放送局ではないかと考えていた。そのため、放送で取り扱う情報はローカルな話題とニュースしか行わなかった。しかし、実際には番組審議会で「全国のニュースを聴きたい。ひとつの情報源として聴いているのだから知りたい」との提案が寄せられた。この時、こちらの思いとリスナーの思いとの間に“ズレ”があると感じ、全国のニュースを始めることになった。

 メディアを受け取る側にとって情報の“入り口”は誰しも必要なわけだが、すべての情報をひとつのメディアで間に合わせる人と、情報の種類に応じて自分でメディアを使い分ける人の二極化していることに気付かされた。

 だからといって、すべての情報を全国にまで落としこんだ物を放送すればいいかというとそうではなく、ローカルの情報はそのローカルのメディアでなければ出てこない。例えば、自分の住む地域で今週行われるイベントやセミナー、講習会の情報をあなたは知っているだろうか。その上で、世界のニュースも知りたいし、地方のニュースも知りたい。編成を構成する上で、地域のニーズとの折り合いのつけ方が大事になってくる。

 しかし今、コミュニティー放送に関しては、多くの局が市民参加として「私情報」を公開している。自分の子供の話をしたり、地域のうわさ話などといった情報を流している。それは、こういった情報が受信者に好まれ、情報の真実味を持ってくるからだ。多くのコミュニティー放送が私情報を放送し、それがコミュニティー放送の活力となっているのは事実。放送は今、新しい活路を見つける段階で、情報の取り扱いについて、いろいろと考えなくてはならないと思っている。






(上毛新聞 2010年9月28日掲載)