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県認定農業者連絡協議会会長  林 康夫(沼田市原町)



【略歴】利根農林高卒。シクラメンなどを栽培する林園芸社長。全国シクラメン品評会農林大臣賞、県農業功労賞など受賞。09年から県認定農業者連絡協議会会長。


変革期を迎える農業



◎生産工程管理の導入を



 農業の在り方を望ましい方向に大きく変革する政策が望まれているが、状況は難しい。日本は平野部が少なく、中山間地域は傾斜地が多いため、区画面積の小さな農地が多い。従って農地の集積が難しく、大型機械の使える、合理化された均一性のある大規模農業が育ちにくい。欧米諸国のように大型化しても、思ったほど効率の良い生産は望めない。

 大規模農家、小規模農家、兼業農家。農家の農業へのかかわり方も千差万別である。本当の担い手としての農業者、他産業に従事しながらの兼業農家、それに定年退職してから農業を始める人たちもいる。趣味で遊休農地を借りて家庭菜園など、農業へは多様なかかわり方がある。

 農地の有効利用を考えると、効率の良い大規模農家と、兼業農家や趣味の小さな圃場(ほじょう)が混在すると農薬散布の効率は悪くなり、生産性の向上を図るのであれば農地利用調整も問題になる。

 しかし大規模農家だけで地域農業を支えていけるとは思えない。社会的な農業の持つ特性、土地保全や景観形成など食糧の生産以外の多面的な機能も有する。農業地域では水路や農道の整備、草刈りなど各戸一人ずつ出て共同で作業をしている地域もある。

 これによって景観保全のほか、水路が維持され、田用水などが確保できる。地域が共有の資源や資産を持って維持管理をしていると言える。農業自体が地域に密着した関係で成り立っているので地域の協力なしでは農業の発展は望めない。専業農家と兼業農家などがバランスよく有ることで、地域農業の生産活動に大きな役割を果たしている。

 今後は、環境保全型農業が重視され、化学合成農薬や化学肥料などの軽減により、環境にやさしい、持続可能な農業を目指す取り組みが推進されている。しかし高温多湿の日本の気候の中では有機栽培や低農薬栽培では従来の栽培よりコストダウンは難しい。安心安全で良質な農産物に対する消費者の需要が期待できる現状では、付加価値の高い農産物として有利販売するためにも、高品質、低コスト化の技術、新品種の開発なども求められる。

 先進的な農業法人、企業的な農家では、安全な農産物の生産、環境への負荷の低減、農業経営の改善、消費者の信頼確保、輸入農産物に対抗できる品質を保持できることを目的にGAP導入に向けての取り組が始まっている。GAPとは農業生産工程管理のこと。取得には、日本JGAP協会などの認証が必要だ。

 消費者との信頼関係を得るためにも、こうした取り組みが付加価値の高い農産物の生産につながる。農業人口の減少に歯止めのかからない現在、農家所得を向上させることが、今後の農業の発展に欠かせない。








(上毛新聞 2010年10月7日掲載)