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自然環境研究センター上席研究員  青木 豊(前橋市南町)



【略歴】桐生高、日本大農獣医学部農学科卒。同大大学院農学研究科農学専攻博士前期課程修了。藤岡北高や勢多農林高などの教諭を務め、2007年4月から現職。



継続できる獣害対策



◎予防にこそ重点置いて



 農林業に対する野生鳥獣による被害は、耕作者からその耕作意欲までをも奪い、各地で耕作放棄地が増加するほどになっています。40%下回る日本の食料自給率を向上させようという視点からも大きな問題と言えるでしょう。

 獣害対策において求められる目的は、被害の軽減、さらには被害の根絶です。 そのための戦略と戦術には、次のようなものが考えられます。戦略としては、(1)徹底的に加害獣を捕獲して根絶する(2)どうしても守りたい地域を完全に囲ってその中から加害獣を根絶する(3)捕獲を継続的に実施し被害の発生を防げる程度に個体数を抑制する―などが考えられます。さらに、そのための戦術としては(1)狩猟期間を延長する(2)被害農家にわな猟免許を取得してもらい捕獲数を増やしてもらう(3)新しい捕獲手法を開発するなど―があります。

 いずれにしても、一人の力で解決できるものではなく、しかも継続的に取り組んでいかなければならない大きな課題です。戦略として、加害獣を根絶させるということは、生物多様性の点からも農林業被害対策としては、許容されがたいものでしょうが、外来種対策としては現実に採用されているものでもあります。どの方法が一番良いというのではなく、あらゆる方法を用いて、目的を達成することが重要であり、被害農家も行政官も狩猟者も各々の持ち味を活いかした方法で取り組むことが望ましいと思います。しかし、当然のことながら、その方法を検証して、新たな方法へと発展させていく努力は忘れてはなりません。

 一年中休むこともなく、それこそ手弁当で野生鳥獣による農作物への被害対策に取り組んでいる立派な猟友会の方がいます。最低限の必要経費以外の謝礼も受け取らず、地元被害農家のために日々活動されている姿には頭が下がります。

 今後は、このような活動をより効果的に、さらに継続的に行えるように工夫していく必要があります。私の仕事は、その工夫をすることだと考えています。そのためにも、被害対策において重要なのは、予防だと言えるでしょう。農作物の残ざんし滓を放置して野生鳥獣を誘引しているようなことをしていたのでは、いくら捕獲したとしても、次から次へと野生鳥獣は農地に出没してきます。まさに、いたちごっこであり、何百頭を捕獲しても解決にはなりません。

 「○○地方で、イノシシ対策に新手法を導入して成果をあげている」というようなニュースがあったとしても、それは成功例とは言えないでしょう。

 本当の成功例は、被害が発生していないことですから、獣害が話題にすらならない日常の中にあるのです。







(上毛新聞 2010年10月23日掲載)