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公認会計士・税理士  並木 安生(東京都中野区)



【略歴】富岡市出身。慶応大経済学部卒。大手監査法人などを経て2008年から都内で会計税務事務所を運営。国内外のM&A(企業の合併・買収)の支援にも従事する。


M&A成功のために



◎効果的な企業査定



 M&A(合併および買収)の話題を以前のようによく耳にするようになった。不況の中を生き抜くために不採算事業を売却すること、または不況を好機ととらえ、さらなる事業拡大を目指すこと、その目的はさまざまであるが、いずれにしても経済の悪化がM&Aの必要性を再び高めている面もあるのだろう。群馬県下でも、半導体等の製造会社や大型家電量販店等が主役となってM&Aが行われており、雑誌や新聞の紙面をにぎわしている。

 これらのM&Aは、デューデリジェンスと呼ばれる企業査定の手続きを経た上で実行されている。買い手としてはこの手続きを通じて買収対象会社に隠れた不良資産や簿外債務がないか徹底的にチェックし、高値買いを避けることができる。また売り手としては、少しでも高く売却できるよう自社の強みを洗い出し、交渉のカードを備えておくためにも、この企業査定の手続きを行う。売り手と買い手の双方にとって納得のいく売買価額を決定し、M&Aを成功させるためにも、この手続きは非常に効果的だ。

 M&Aを行う際にはもうひとつ留意したいことがある。M&Aには税務上のさまざまな落とし穴が潜んでおり、事前に検討をしておかないと想定外の税金を支払わなければならない羽目となる恐れがあることだ。

 例えば、ある会社が他社を買収した上でその会社との合併を行い、買収された側の会社のオーナー経営者に十分な退職慰労金を支払い退任して頂いたとする。あるいは、大企業が中小・零細企業を買収し、自社との統合を図ったとする。いずれもよく見受けられるケースといえるが、税務の世界ではこれらの行為を行った瞬間、納税を生じさせる引き金を引いてしまったことになる場合もあり、結果として多額の法人税を支払わなければならない恐れが出てしまうのだ。

 これらの取り扱いは、組織再編税制と呼ばれている専門的な法律により決められている。税務に明るくない人たちにとっては、なぜそんなことで税金が生じてしまうのか、とても疑問に感じるであろう。前述した引き金となる行為はほんの一例にすぎず、他にも税務上の落とし穴が数多くある。M&Aを希望する会社の経営者や経理担当者が、外部専門家の力を借りることなく自らデューデリジェンスを行い、以上の税務上の留意点を検討することも不可能ではないが、十分な時間をかけて慎重に行われたい。

 以上の話は大きな会社にだけかかわるものではない。後継者問題等でオーナーが自らの会社を売却するケースが今後多くなると予測されるなか、すべての会社経営者に関係する課題と言っても過言ではないであろう。来るべき時に備えるためにも、頭の片隅には入れておきたいテーマだ。







(上毛新聞 2010年11月6日掲載)