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古書店経営  樋田 行夫(前橋市岩神町)



【略歴】前橋高、法政大学法学部卒。東京・高円寺都丸書店にて古本屋修業。帰橋後、実家の大成堂書店で群馬の古本屋を学ぶ。1977年、大閑堂書店開業。



古書店の原点



◎必要な人への橋渡し役



 いつごろからなのであろうか。人が気のおもむくまま、棚から本を取り出し、それを自分の手元に置いておくべきかの子細を検討し、決定する行いを日常のものと見ていたことが、遠い昔の出来事と感じるようになったのは。

 古本屋は「古本販売及買入」と謳(うた)って営業している。

 買い入れは店への持ち込みとお客様のお宅へ伺ってする宅買という方法がある。

 電話で問い合わせるよりも直に持参してくれた方が評価を付けやすいので買い入れの確率は高くなる。

 また、買い入れでは最近難問が多くなってきている。

 幾世代を通して受け継がれてきた書物が、時代と人の推移によって役割を終えていくのは世の習いであるが、まだまだ必要と思われる書物が顧みられなくなっている事態には、いささかたじろいてしまう。

 人口動態、生活様式、価値観等の変化は、本離れを生みだし、文化の断裂をも招いた。とは言いすぎであろうか。

 時代の要請から外れたり、新版、復刻、普及版、文庫本など、新たな装いで再版されるなどで、10年前、20年前なら評価を付けられたものが、極端な場合、引き取れないことになってしまうのは、残念である。

 古本屋は「浅く広くいろいろな事柄を知っておくことが肝要」。そして「本に価値をつけるのが古本屋の仕事」といわれる。書物の価値を見極めるためには経験に裏打ちされた触角を十二分に働かす。

 しかしながら、このような従来の方法を根底から覆し、全国的に進出している大型新古書店の台頭は、社会的不況と長年言われている出版不況と相まって古本屋の営業に価格破壊等の深刻な影響を及ぼしている。

 群馬県古書籍商組合加盟の古書店数は新旧交代はあるがおよそ26店。ここ数年来変化無しで来ている。売り上げが絶不調でも頑張っているのだ。新規参入の若手組合員もそれぞれが独自の方法で商いをしている。

 販路の開拓の意味はもちろんあるが、古本の面白さを見て知ってもらう意味合いを一番に据えて、県内3カ所で古本即売会を開いている。古本屋にとっては、扱っている本をよりよく理解している顧客とのコミュニケーションは、貴重な財産である。それを交流の場にまで高めることができれば本の広がりのためにも面白い。

 柔軟なスタンスをもって知恵を絞り、悪戦苦闘しながら書物が本来備えている特性を生かすことを考え、その本を必要とする人への橋渡し役を果たすという古本屋の原点を保ち、地道な生なりわい業を続けるていくことで、あの昔の風景が日常になることを信じて今日も又。

 書物は本来広く公開され活用されるべきもの。そして、それは再生産される価値あるものが望ましい。








(上毛新聞 2010年11月20日掲載)