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前橋地方気象台長  阿部 世史之(前橋市元総社町)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、釧路地方気象台長などを経て、今年4月から現職。



生物季節観測



◎移ろいを把握する指標



 10月27日の朝、群馬県の上空に冬の到来を告げる強い寒気が流れ込みました。この影響で、県北部に位置する標高の高い山々(仙ノ倉山、白砂山、浅間山、武尊山)の山頂付近が、秋になってから初めて、雪が積もって白くなっていることが、前橋地方気象台から職員の肉眼で確認され、「初冠雪」として発表しました。いずれの山も、平年と比べて「4日遅い」から「4日早い」の中に収まりました。

 「初冠雪」は冬の訪れを推しはかる際の、「目に見える」指標として用いられ、群馬県では前述の山々に赤城山と榛名山を加えた六つの山を観測の対象としています。初霜、初氷、初雪も冬の到来を観測(観察)する項目で、気象台の構内で確認します。

 植物や動物の様子からも季節の移り変わりを観測(観察)するのが「生物季節観測」です。気象庁では、全国の気象官署で統一した基準で調べています。

 ウメ、サクラ、ヤマハギなどが開花した日(花が数輪、サクラでは5~6輪以上開いた日)、サクラが満開となった日(花が約80%以上咲いた日)、カエデ、イチョウが紅葉・黄葉した日などをチェックするのが「植物季節観測」。

 ヒバリ、ウグイス、アブラゼミなどの鳴き声を初めて聞いた日、ツバメ、モンシロチョウ、ホタルなどを初めて見た日などが「動物季節観測」です。

 特にサクラの開花と満開の情報は、本格的な春の訪れを告げるうれしい便りとして、社会的に高い関心が寄せられます。この観測の目的は、生物に及ぼす気象の影響を知るとともに、観測結果から季節の遅れ進みや気候の違いなど、総合的な気象状況の推移を把握するのに用いられるほか、新聞やテレビなどの報道で生活情報の一つとして利用されています。

 近年は、春到来の早まりや秋・冬の遅れが「目に見える」指標で分かる観測種目として、地球温暖化の監視にも役立っています。「植物季節観測」の多くは、観察する対象の木(標本木)を定めて実施しており、前橋地方気象台の構内はさながら小さな植物園のようです。

 一方で、トノサマガエル、ホタルなどは、生息環境の悪化により、気象台の構内や周辺でも観察することができなくなっています。

 このような季節の気象現象や植物・動物の様子の観測は、人間と自然界・生物界の距離を近くに感じることや、環境教育にも役立つことから、地球温暖化や生物の多様性が大きな話題になっている今の時代では、大きな価値を持つと思います。

 目と耳を観測装置として手軽にできるので、自宅や学校で観測点や観測種目を定めて、季節の移ろいを感じる観測(観察)を始めてみてはいかがでしょうか。







(上毛新聞 2010年11月26日掲載)