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大川美術館館長  寺田 勝彦(桐生市宮本町)



【略歴】東京都出身。学習院大大学院修了(美学美術史専攻)。学習院女子高等科科長などを歴任。学習院名誉教授。清春白樺美術館理事。日本ユネスコ協会連盟会員。


厳しい地方の美術館



◎効率的な予算運用を



 初秋の、好日、電車とバスを乗り継いで県立館林美術館を訪れた。無論、今回がはじめてというのではない。車を使わなかったのは、この土地の交通事情にまだ不慣れというということもあったが、そもそも私は、可能な限り公共交通を利用することにしているからである。

 同美術館で開催する「りょうもうの美術館名品展」は、渡良瀬川をはさんで栃木県と群馬県にまたがる両毛地区六市五町の美術館や博物館を紹介するという画期的なもので、私が勤める桐生市の大川美術館も取り上げていただいた。そんなわけで今回も館林駅前からは多々良巡回線バスに乗ったのだが、あいにく、美術館前へは行かず、最寄りの停留所である「西高根町」で降りることになった。美術館へは、そこから徒歩で15分ほどの道程である。徒歩はともかく、土曜の昼下がりということもあってか、その折のバスの乗客は私1人にとどまり、結果として1人の乗客のためにバスは40分も走ったことになる。考えてみれば何とももったいない話なのだ。いささか飛躍するが、美術館が開館中にもかかわらず、人気のない展示室を見る時のあの言いようのないむなしい気持ちを思い出してしまった。

 酷暑の1日、私は国立新美術館へ「オルセー美術館」展を観(み)に行った。会場前にはすでに入場者が長蛇の列をつくり、会場へ入るまで1時間以上も待たされたのである。やっと会場へ入ったものの混雑がひどく、作品どころか目に入るのは人の頭ばかりというありさまであった。英国の美術専門誌「アート・ニュースペーパー」(4月号)が、昨年度に開催された世界の展覧会の1日当たりの入館者数の順位を発表しているが、何と日本が上位を占めているのである。ちなみに1位は、東京国立博物館の「国宝阿修羅像」展で、1日平均1万5960人とあった。それ故に同誌は「日本の展覧会愛好者は不況知らず」とも報じているのだが、もちろんそれは大都市での知名度の高い大型美術展に限った話である。昨今、当館のような地方都市の、とりわけ民間の美術展などへはなかなか人が足を運んでくれないのが現状である。美術館はもともと収益性が低い。一方、活動すればするほどお金が必要となる。もちろん、徹底した無駄の見直しや効率的な予算運用を心がけている。それでもこのまま入館者の減少が続くなら、日常的な活動も縮小を余儀なくされてしまうだろう。実際、美術館の最重要項目である作品購入費にさえ、手をつけざるを得ない状況である。

 目下、当美術館では「大川美術館コレクション名品選」展を開催している。館所蔵品だけで全国の美術愛好者に来館していただけるというのは、まだめぐまれている方である。








(上毛新聞 2010年11月27日掲載)