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東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹(茨城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


観光客へのアンケート



◎データは社会インフラ



 最近山手線に乗ると、雲海の中にまっすぐ伸びる稜線に、一筋の登山道が空に向かうポスターに出合う。蒼(あお)白い空に、真っ白な雲のじゅうたん、岩肌の登山道のコントラストを見ると、「いつかは行ってみたい」と心に刻み込まれる。

 このポスターは10月から始まった信州デスティネーションキャンペーン(DC)のもので、来訪以前にどのような情報を提供するか、観光振興では重要といえる。

 なぜなら、非日常空間を訪問する「観光」行動は「確認」行動と言われており、事前入手したきれいな写真や口コミによる特産品などの情報を、訪問によって実体験し、確認することを通じて、観光者は充足感、満足感を得るためである。

 来年7月から9月にかけて、JRと連携しながら群馬DCが実施される。誘客のためには魅力ある観光資源の情報提供に加え、現在の来訪者像の把握も必要不可欠と考えられる。

 本年7月末に研究室の学生10名と共に赤城山山頂と山麓で約千人の来訪者にアンケートを行った。その結果、赤城山山頂には主に50代、60代の人々が家族や友人と一緒に、ドライブや風景観賞、登山目的で来訪していることが分かった。さらに自家用車利用、日帰り形態が約9割を、周辺の6市からの来訪者が全体の50%を占めていることも判明した。

 個人への聞き取りのためデータを得るための労苦は大きいが、年間の入り込み者数や日帰りと宿泊旅行の割合が示されている統計データと比較すると、アンケートデータからは多くの情報を得ることができる。

 例えば、来訪者の再訪意向割合は「絶対に再訪したい」37%、「できれば再訪したい」42%であったが、その理由として自然、静か、近いなどの理由が共通で見られる一方、強い再訪意向では農産物や地域特有の飲食物を回答していることが分かる。

 唯一無二の資源が地域への強い来訪動機となることや、さらには誘致圏、周遊経路、立ち寄り地点など観光振興で欠かすことのできない情報を得ることが初めて把握可能となる。

 このように観光振興を図る上で来訪者へのアンケートは大きな示唆を与えるものであり、多くの関係主体に有益となることから、社会インフラとして早急に整備することが必要ではないだろうか。

 フランスを事例にとると、来訪者1万人以上の観光地では継続的にアンケートデータを整備、公開し、地域関係主体の他、外部から参入を検討する事業者にも提供している。

 地域を見つめ直すため、そして何よりもデータの分析を通じた地域の応援団をつくるためにも、観光データ整備の効果は大きいといえよう。








(上毛新聞 2010年12月7日掲載)