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管理栄養士  小坂 桂子(高崎市中室田町)



【略歴】明和学園短大卒。病院、老人ホーム勤務を経て現在同短大非常勤講師。NPO法人ぐんまの食文化研究会理事。ぐんま女性会議で男女共同参画社会推進に取り組む。


高齢者の食の問題点



◎健康寿命をのばそう



 流行のスイーツの行列に並びワクワクしたり、素材にこだわった健康料理を作ったりと…。毎日、メディアなどからの情報を楽しく、また有意義に受け止めている方も多いのではないでしょうか。半面、科学的な理論に基づいているものの、一見地味な情報は埋没しがちです。

 管理栄養士・栄養士は専門職業人として『自己実現を目指し健やかによりよく生きる』すべての皆さまにさまざまな分野で「食」「栄養」の情報をふまえた指導をさせていただいています。

 今回は高齢者の食の周辺についてお伝えいたします。

 いきいき元気!と思われる高齢者の皆さまは、長い人生のなかで培われた独自の価値基準を持ち、自分なりの食事観が形成されています。そして、“しっかり”と食事(特に肉・魚・卵・大豆製品の摂取が適正であること)をとっている傾向もうかがわれます。

 ただ一方で、生活習慣病予防が主な目的である抑制的な傾向の中年期の食生活は、高齢者にとってはかえって老化速度を進めてしまうという研究報告があります。健康寿命(WHOが提唱したもので、平均寿命から寝たきりや認知症などの要介護状態の期間を差し引いた寿命をいう)の延伸を図るには、過度の肥満や持病の食事療法をしている方は別として、偏った予防食には注意が必要です。

 高齢者は、タンパク質とエネルギー不足からの低栄養状態が疑われ、生活自立度の低下につながる場合もあります。まずは、少しずつでもとにかく幅広い食品を摂ることをおすすめします。具体的には国では、“こま”の形をした食事バランスガイドを作成し、栄養バランスの改善に力を入れています。

 もうひとつ、健康寿命の延伸を阻む個人では対処しにくい問題があります。皆さんは“食の砂漠”という言葉をご存じでしょうか。主に中心市街地などにおいて、食料品・日用品店等の撤退した地区のことをいうそうです。この問題は多くの地域で発生しています。特に交通手段を持たない高齢者が、買い物難民となり生鮮食料品の購入が困難となります。その結果、食物の摂取量が不足し健康を損ねる恐れが生じます。現在、全国で600万人もの買い物弱者である高齢者がいるといわれています。

 以前、勤務していた老人ホームでの人気イベントのひとつに、園のバスでの買い物ツアーがありました。買い物する楽しさ、食べる楽しさ等、それらが生きる力となります。自治体を中心にさまざまな対策が考えられているようですが、対象者の現状把握とニーズを正確にとらえていくことを大切にしたいものです。








(上毛新聞 2010年12月10日掲載)