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医師・大塚製薬健康推進本部長  佐藤 和子(高崎市片岡町)



【略歴】桐生市生まれ。桐生女高、福島県立医科大卒。麻酔学や医化学を研究し、兵庫県立尼崎病院心臓センター、国立循環器病センター勤務を経て1987年から現職。


心身の健康育むために



◎「食事の定量化」導入を



 「いつ、何を、どれだけ、どのように食べたか」によって、健康は左右される。私たちの体は食べることで支えられている。しかも体を構成している成分は、絶えず速い速度で入れ替わっている。

 私たちは自分の体の健康管理について、一体どれだけ理解しているだろうか? 親から躾(しつ)けられている人は幸せであるが、稀(まれ)である。食事を定量化して栄養素分析をすると、栄養素の過不足の状況と、体調の悪さとが、密接に関係していることがわかる。過不足を解消すると体調は回復する。このような因果関係を長年にわたって観察してきたので、現行の健康教育に、これまで欠如していた食事の定量化を導入することをお勧めしたい。

 健康管理に必要な知識は、体の仕組みについての学習と食事のとり方についての学習から得られる。前者は1980年代の『NHKサイエンススペシャル驚異の小宇宙・人体』6作(生命誕生、心臓、胃・腸、肝臓、骨・筋肉、免疫)のビデオ作品(各40分)とそれらの書物、そして高校で使われている生物学I、IIの教科書などが有用である。後者の学習には、まずは(1)食品の重量(グラム)の分かる能力を育てることが基本で、計量用のはかりを活用して能力開発する。次いで(2)現在の食事を食品ごとに重量(グラム)を記録し、栄養素分析をして過不足を知る。そして(3)各栄養素の生理的役割を知ることで、過不足の栄養素がいかに体に負担をかけていたか納得できる。そこで(4)『日本食品標準成分表』を活用して食品の栄養素含有量を知ることで、どの食品をどれだけ加えれば不足成分が解消できるか理解できる。(5)栄養素の整った食事を毎食に活用できるよう、献立として仕上げる。

 このような学習で身につけた知識を活用することで、自主的な健康管理が可能となる。私は、今だからこそ社会人をはじめ、青少年に食事を通しての健康づくりを伝えるべき時がきていると思う。理不尽な行為をひきおこす人々に健康な人はいない。ことわざにあるように『健全な精神は健康な体に宿る』ものだからである。誰もが健康で生きられるように協力しあうことがさらに大切な時代になった。食べ過ぎから病気を招き、療養している人が何と多いことか。一方では食べ足りなくて病を得る人も多い。これらを未然に防ぐことは可能である。食べ物の不足は生存を困難にする。地球上の生き物すべてに共通である。

 食事に定量化を導入することで健康教育を充実させれば、着実に一歩を踏み出せることを強調したい。
 







(上毛新聞 2010年12月16日掲載)