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NPO法人・県スローフード協会理事長  田中 修(高崎市浜尻町)



【略歴】渋川市北橘町出身。九州大大学院修了後、1976年に県庁に入庁。県農業試験場、農業担当理事兼農業局長を経て、2008年から現職。放送大学講師も務める。


有機農業推進のために



◎実効性のある支援を



 有機農業が新しい局面を迎え、今後の展開が期待されている。地球環境が重視され、国連生物多様性条約第10回締約国会議が今年10月に名古屋市で開催されたが、こういった観点からも有機農業があらためて注目されている。県スローフード協会では有機農業の推進を重視し、情報の収集やネットワーク化の支援を図ってきた。

 生物多様性の取り組みでは、兵庫県豊岡市のコウノトリの野生復帰、新潟県佐渡市のトキの野生復帰のプロジェクトが注目されている。ともに日本の野生種は絶滅し、中国やロシアの協力で育成に成功し、現在、野生復帰に向けた取り組みが進められていることは、周知のところである。

 このプロジェクトを支える有機農業や環境に優しい農業の取り組みが、地域ぐるみで進められており、とりわけ有機農業が果たしている役割は大きい。豊岡市では、コウノトリが住める環境づくりのため、田んぼにさまざまな生物が生息できる環境をつくるため、全国の有機農業関係者らが技術普及に協力し、大きな成果を上げていることが報告されている。地域では、農家や地域住民、小中学生、教育機関、行政やJAが有機農業の普及や環境づくりに連携している。

 また豊岡市では、稲作の湛水不耕起移植栽培が「コウノトリを育む農法」として確立された。この技術は、種籾(もみ)は温湯に浸け、田植え前の耕起はしない。湛水(たんすい)によりイトミミズが水田をトロトロ状態にし、ここに成苗を移植する。水管理は深水で中干しを遅らせ、オタマジャクシがカエルに育つまで待つ。農薬・化学肥料は不使用か、減農薬・減化学肥料(慣行の7割削減等)で、除草対策に粉糠(こぬか)や糖蜜を使用する。湛水は、稲収穫後か春田植え前早期に行い、水田に生物が生息しやすい環境保持に努めている。

 佐渡市でも豊岡市と連携し、地域ぐるみでトキの生息する環境づくりのための取り組みが進められている。

 それぞれの地域では、「コウノトリの舞」「朱と き鷺と暮らす郷」等として認証された有機米や特別栽培米が、直接支援者へ、または契約した大手量販店を通して販売されている。

 地域で点的な存在の有機農業が、地域住民と交流し「点から面」になる環境が一部にできたことを評価したい。日本は有機農業の取り組みでは遅れており、世界132カ国中、面積で77位、面積比率では78位と韓国、中国にも先を越されている。群馬県でも、7月に県有機農業推進計画が策定されたが、有機農業推進のための実効性のある支援が期待されている。








(上毛新聞 2010年12月28日掲載)