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黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長・画像センター長 
                               佐藤 裕一
(高崎市矢中町)



【略歴】新潟県柏崎市生まれ。日本大医学部卒。同大医学部内科学教授を務めた後、2009年から現職。


増加する冠動脈疾患



◎MSCTで早期発見を



 飽食の時代といわれる現代において、不適切な生活習慣によって引き起こされる肥満、高血圧、糖尿病、喫煙、高脂血症(脂質異常症)、そしてメタボリックシンドロームは動脈硬化を著しく進行させます。その結果、心臓を栄養する冠動脈が動脈硬化を起こし、血管の壁にコレステロールがたまることにより、狭心症や心筋梗塞といった冠動脈疾患が年々増加しています。冠動脈疾患はわが国の死亡原因のうち、がんに次いで第2位となっており、また突然死の原因にもなっています。

 心筋梗塞をいったん発症すると、治療の発達した現在でも、その死亡率は50%ときわめて高率です。なぜならば、心筋梗塞発症後には生命を脅かす不整脈が頻発し、一瞬にして心停止をきたすことが多いからです。心筋梗塞症を発症し、病院に到着する前にお亡くなりになる患者さんも約40%いらっしゃいます。また心筋梗塞症を発症する患者さんの半数は胸痛や、胸部不快感などの前兆がありません。ですから心筋梗塞症は人体にとって予測不能な攻撃、まさにテロリズムといっても過言ではありません。しかし冠動脈疾患の早期発見はとても困難です。現在でも心臓カテーテル検査が冠動脈疾患診断の主流ですが、医療事故も多く、病気の早期発見には適していません。

 前述のように、心筋梗塞症や狭心症などの冠動脈疾患はがんやその他の病気とちがって、早期発見がとてもむずかしい病気です。たとえば心電図や、血液検査では診断することはできません。なぜならば、心筋梗塞症をおこす患者さんの冠動脈は必ずしも狭窄(きょうさく)(狭くなっている)というわけではないからです。

 約10年前、画像診断に革命的発展がありました。それはマルチスライスCT(MSCT)の登場です。今では装置の改良により、数秒の息止めで撮影が可能となっています。MSCTでは血管の狭窄がわかるばかりではなく、心筋梗塞発症の危険を知ることができるのです。

 MSCTはカテーテルに比べるとはるかに安全な検査ですが、やはりレントゲン検査なので放射線被ばくがありますし、造影剤を使いますから、その副作用(アレルギーや腎機能障害)の可能性もあります。一方、MRI(磁気共鳴画像装置)は放射線被ばくもなく、造影剤も使いませんから人体にとってはまったく危険はありません。したがって健康人を対象とするドックでの応用が期待されます。今後冠動脈MRIによる心血管ドックが広まることを期待します。







(上毛新聞 2010年12月31日掲載)