視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
群馬大大学院工学研究科教授  鵜飼 恵三(桐生市相生町)



【略歴】宮崎県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。群馬大工学部建設工学科助教授などを経て1992年に同大教授。日本地すべり学会長。工学博士。


中国を訪れて思う



◎警戒より寛容の姿勢で



 昨年11月、日本地すべり学会調査団の団長として中国甘粛省舟曲(かんしゅくぞうちゅう)県を訪れた。同年8月に1700人もの死者を出した土石流災害の原因調査と防災診断を省の防災機関から依頼されたためである。

 日本の優れた土砂災害調査と防災の技術を中国の技術者に伝える目的もあった。2008年5月に発生した四川省の大地震災害に続く調査であったが、中国で発生する自然災害の規模の大きさには言葉を失うほどである。

 今回の災害現場では、短時間の集中豪雨で土石流が発生し、小河川の扇状地に発展した市街地の大部分が氾濫した土砂で埋め尽くされていた。小河川の上流には、石を積んだだけの高さ数メートルの砂防ダムが何基も設置されていたが、土石流の勢いで跡形もなく破壊されていた。

 日本では毎年、甘粛省の数倍に及ぶ雨が降るが、多くの死者を出すような土石流災害は、近年起こっていない。この理由の一つは、日本の砂防ダムが、山崩れで河川に流れ込む大量の土砂を食い止められるように設計されているためである。今回、調査団は、舟曲県の土石流の原因を解明し、日本の防災技術を提供することにより、中国の多くの関係者からたいへん感謝された。

 ところで、調査団が甘粛省を訪問した時期は、日中間が尖閣諸島問題で揺れており、中国内で反日デモが起こっていた。甘粛省の省都である蘭州でも、われわれが去った翌日に小規模の反日デモがあったと報じられた。しかし、われわれ調査団は連日、訪問地で大歓迎を受け、街中でも反日の雰囲気さえ感じることはなかった。日本の報道は、中国の反日行動に対して、やや反応過剰ではないかと思う。

 一方、中国に行って感じるのは、人々が持つ圧倒的なエネルギーである。皆が、より良い生活を求めていて、上昇志向である。さらに中国の人々は、品質が高く安全・安心な日本製品に対する強いあこがれを持っている。また、日本に魅力を感じ、日本を訪問したいと思っている中国人も数多い。

 このような需要は、日本経済にとって必ずプラスの要因になるはずである。隣国を警戒するより、受け入れる寛容さと、隣国に飛び込んで行く積極性を持つことにより、日中間で互いに提供しあえるものがたくさんあると考えている。

 群馬県としても長期的な視野に立って、このような需要に対する具体的な方策を立案し行動に移していく必要があろう。







(上毛新聞 2011年1月5日掲載)