視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
新島学園短大准教授  亀井 聡(高崎市飯塚町)



【略歴】宮城県生まれ。県内の児童養護施設在職職中に資生堂児童海外研修に参加し、豪州の児童虐待の取組みを視察。その後駒沢大大学院を修了し、2006年から現職。


児童虐待を考える



◎連鎖へ発展する危険



 厚生労働省の平成20年度資料によると、全国の児童養護施設は569施設。ここで3万人以上の子供(18歳未満)が生活している。このうち38・4%が、棄児を含めた児童虐待や親の養育拒否による入所。これらの施設で生活している子供のうち53・4%が、入所前の家庭で虐待された経験があるというから驚きだ。

 本県には児童相談所が三つあるが、その虐待相談受理件数を見ると、1998年度が107件だったのに対し、2008年度は557件と約5・5倍に急増している。本県の18歳未満人口は98年度が39・2万人なので3670人に1人、08年度は34・5万人なので620人に1人が虐待相談をした計算になる。

 本県においても児童虐待は特別な、あるいは特定の家族の問題ではなく、一般的な家庭でも起こり得る問題になったといえる。

 虐待は英語で「abuse」。「abnormaluse」からなる言葉で正常ではない使い方で乱用、悪用、誤用などの意味もあり、児童への虐待「childabuse」である。「abuse」は不適切方法での養育や不適切なかかわりであり、その代表的な例として身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトがある。

 児童虐待は、親の不適切な行為だけが問題はなく、それ以上に問題なのは虐待を受けた子供の健全な成長発達が損ねられ、そしてその後の人生に有害な影響を与え、大人になってから、わが子を虐待をする「虐待の連鎖」へと発展することも少なくない。

 子供の健全な成長発達は生まれながらにして持っている人としての権利であり、児童虐待はその権利を奪うことである。虐待を受けた子供が子供期からどのような問題を抱えて生活しているかについて理解しなければならない。

 虐待を受けた子供は自分に対して汚い、価値のない人間という感情を抱くなど自己評価が低い。その反動で攻撃的な行動を起こす場合もあれば、脳の発達に遅れが見られ、知的能力が劣ったり、落ち着きがなく、多動であったり、家庭や学校などで人間関係や行動面なでさまざまな問題を起こす。行動面での問題はさらに非行へと悪化し、虞(ぐ)犯、触法児童を指導する児童自立支援へ入所する被虐待児も少なくない。そして全国の児童自立支援施設の入所児童の約3分の2が入所前の家庭で虐待された経験を持っている。

 児童相談所には性格行動上の問題を扱う性格行動相談があるが、この件数も増加傾向になり、その相談から社会的養護に入所する子供もいる。これも親の子供への不適切なかかわりが起因していると思われる。

 児童虐待は、児童虐待防止法で規定しているように人権侵害であり、親権停止という問題へ発展する。








(上毛新聞 2011年1月11日掲載)