視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
ミーティングポイント・ドゥープラス代表  長ケ部 さつき(大泉町北小泉)



【略歴】武蔵野音楽大ピアノ科卒。自宅でピアノ教室を開く傍ら、2001年に音楽を通じた地域交流を図ろうと「ミーティングポイント・ドゥープラス」を設立。


ブラジルから届いた楽譜



◎たくさんの絆を結ぶ



 街のあちこちで、ポルトガル語の看板が目についた。そのほとんどが読めなかった。ブラジル料理のレストランに入っても、注文することもできなかった。2002年、バイオリニスト、五嶋みどりさんのコンサート「トータル・エクスペリエンス」を大泉町で開催するプロジェクトを進める1年の中で、日本人とブラジル人が、どのようにコミュニケーションをとり、地域のコミュニティーをつくっていったらいいのか…。テーマである『絆』のイメージが、頭の中でふくらんでいった。

 私は、日本人、ブラジル人を問わず、さまざまな世代の人たちに、イベントへの参加を呼びかけていった。「ポルトガル語講座」「ブラジル料理」「カポエイラの体験」、日本の文化「茶の湯・いけばなの紹介」、さらに大学生の視点による「新しい街づくりの提案」、高校生による「竹炭製作」、中学生による「国籍を超えた絵画の共同制作」と広がっていった。

 その中で、さて、小学生はどうしたら仲良くなれるだろうか、そのとき歌で国籍を超えられないだろうか、と思いついた。日本の歌をブラジルの子どもたちが覚え、ブラジルの歌を日本の子どもたちが、一緒に歌う…。歌というキーワードがひらめいた途端に、少しずつ輪郭が見えてきた。

 日本に童謡があるように、ブラジルでも誰もが歌う歌があるのではないか。ブラジル人の方々に聞いてみると、子どものころから歌っている歌はあるということがわかった。それぞれに口ずさんでもらったが、何となく曖昧で少しずつ違っていた。この歌の楽譜はあるのか、ブラジルに問い合わせをした。町内にある輸入業者に聞けばわかるかもしれないと気づき、身ぶり手ぶりで尋ねてみた。日本のように楽譜が簡単に手に入るという環境ではないということがわかった。

 そんな時、ある日本人の方から電話をいただいた。娘さんご一家が、仕事の関係でブラジルのマナウス市に在住しているということなので、ブラジルで楽譜を探してほしいとお願いした。しばらくして探してもないという返事があった。それでは、ブラジルで聴き取って楽譜をつくろうということに変わっていった。

 ある日、鮮やかな色の切手が貼ってある1通の郵便が届いた。心待ちにしていた楽譜だった。そこには、採譜のことを聞きつけたたくさんのブラジルの人たちが、駆け寄ってきて突然歌いだして驚いたということが書き添えられていた。

 ピアノのふたを開け、そっと弾いてみた。ロマンチックなメロディーが流れてきた。Se essa rua fosse minha(この道がもしもわたしのものだったら)という名のこの歌は、こうして遠いブラジルから、たくさんの『絆』を結んで、わたしたちのところへやってきた。







(上毛新聞 2011年1月14日掲載)