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◎歌詞から学ぶ人権問題 小学校1年生の公開授業を参観する機会を得た。科目は道徳。戦後民主主義を根付かせることが教育の根本にあった時代に育った私は、低学年で道徳の授業を受けた記憶はない。 人権週間にちなんで『アンパンマン』でおなじみの、やなせたかしさんが作詞作曲した人権イメージキャラクターソング『世界をしあわせに』を中心に、詞の意味を理解していくという授業だった。録音してある歌を聴かせ、詞をプリントして渡し、気付いたことを尋ねることから始まった。 先生の適切な質問に、感じたこと、読みとったことを自発的に発表していきつつ、意味を読みとることを深めていく試みを行う。 中心になる言葉とそれと関わりのある言葉から、考えられる事柄を発表するのだが、その意見の多様さに驚いた。例えば「泣いて助けをよんでいる小さないのちをみすてない」という語句に対しては「ピンチになっている友達を手助けする」「現在起きている戦争を止めさせる」「犠牲になっている子供を助ける」。 そして「だいじないのちをいじめない」「すべてのいのちは生きる権利がある」には「友達を大事にする」「助けあう」「声をかけあう」「一緒に遊ぶ」。人間の尊厳、生命を「みんなでまもり、手をとりあって世界をもっともっとしあわせにする」ことに対しては力が及ばなければ「心で応援する」だった。 難しく考えがちな人権というものを、先生が個々の発表をおろそかにせず全員に目を配りながら、具体的に理解させ、考えをまとめさせ、納得させていく授業は素晴らしい共同作業に思えた。小さな頭から湯気が出てくるのではないかと思えるほど熟考し、最終的にはクラス全員がしっかりとした自分なりの意見を発表して授業が終了となった。 自分だけの考えだけでなく他にも違う考えの人がいるのだという、考え方の多様性を理解することまで行きついたのには驚嘆した。人が世間との関わりを持つ上での必要な事柄を得ることを道徳と捉えるならば、最良の授業であった。 このような濃密な学習の時間を体験する過程で子供たちの心に物事を把握する考え方の基礎が形成されていくのだろうし、この体験は心に記憶として残っていくとの感慨を抱いた。 歌にしてわずか3分ほどの詞を1時間かけて丁寧に鑑賞することで、訴えたいことが子供の心に伝わり生きていく過程を目にできた。言いようのない満足感が満ちてくるのを覚えた。 文章化されたものを前に沈思黙考、熟読玩味している姿は格好のよいものである。読みの深さというものは本に限らずどんなことにでも必要なことではなかろうか。あわただしい時の流れの中で生活している現代であるからこそなおさらに必要なことと思える。 (上毛新聞 2011年1月18日掲載) |