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◎人は誰でも賛辞を好む みなかみ町で温泉旅館を営んでいる私ですが、今回は、自分の子育てネタで「おもてなし(人を大切にすること)」のお話を。 ある夜、私は次女(小6)に向かって尋ねました。「県の陸上記録会で、自己ベストを更新したのは誰?」「約束したお手伝いを、絶対にさぼらないのは誰?」「毎日、自分で決めた勉強をしているのは誰?」。これらの質問の答えは、全て「それをやったのは、私(次女)」という問いかけです。 某私立中入学試験の前夜、こんなやり取りが続きました。次女が「私はやった」「できた」と言葉で言えるようになるまでです。こんなことをしたのには理由がありまして、私は、次女に「私はできる」という自信を持って、入試に臨んでほしかったのです。 後日届いた合否結果の通知には「合格」の文字が躍っていました。本当にありがたいことですが、ここで伝えたいのは、娘の自慢などではないのです。 次女は生後、言葉の発育が遅く、4歳からのピアノもしばらくは「完全なマイペース」でしたし、最近までは「光る才能」をほとんど見いだせませんでした。 しかし「次女にも、必ず何か良いところがあるはずだから」と、妻と何度も語り合った記憶があります。つまり次女の「できないこと」でなく、何が「できる」のだろうかということに焦点を当てようと、強く意識し、関わってきたのです。 いつだったか、どこかで「少なからぬパターンとして、多くの人が、自分の親に育てられたようにわが子を育ててしまう」というようなことを聞きました。無理もないことだとは思いましたし、無意識ならば、それも当然だろうと思います。 ところが、この「子育てのパターン」は、家庭内にとどまらず、例えば職場の人間同士のコミュニケーションの場でも大きく影響していることを知った時、私は少しだけ愕然(がくぜん)とし、「本当に、気をつけなければ」と強く思ったのです。 なぜならば、私自身が、親から褒められた記憶がほとんどないほど、厳しく育てられた子供時代の過去の持ち主だったからです。 「人は誰でも賛辞を好む」。これは、確か米国大統領リンカーンの言葉。そして「賛辞」は、言われた本人にとって、何より必要で大切な「やる気」や「自信」を育んでいきます。これらは子供だけでなく、職場で働く大人にも当てはまるのではないでしょうか。 今の私が、職場内で極力心掛けたいと努めていることは、人を「批判」「判断」「評価」するよりも、「気持ちに寄り添い」「励まし」「力づけ」ていくこと。それは、私の周囲とより良い人間関係を創り出すために欠かせません。そして、何よりこのことが「おもてなしのスタート」なのではないかと信じているのです。 (上毛新聞 2011年1月21日掲載) |