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前橋地方気象台長  阿部 世史之(前橋市元総社町)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、釧路地方気象台長などを経て、今年4月から現職。



気象衛星観測



◎台風の顔つきを測る



 国際連合の専門機関である世界気象機関(WMO)は、世界気象監視計画の重要な柱の一つとして、複数個の静止気象衛星と極軌道気象衛星からなる世界気象衛星観測網を管理しています。日本は、その一翼を担う静止気象衛星「ひまわり」シリーズを、1977年以来運用してきました。現在の「ひまわり7号」はこれを継承し、日本とアジア・西太平洋域各国の天気予報はもとより、台風・集中豪雨、気候変動などの監視・予測、船舶や航空機の安全運航に貢献しています。また「ひまわり」の雲画像は、テレビや新聞などの気象情報をはじめ、最近はインターネットで見ることができ、日常生活にもなじみ深いものとなっています。

 日本の気象庁は、WMOの枠組みのもと、東経100度から180度、赤道から北緯60度までの北西太平洋海域に存在する台風や熱帯低気圧について、観測や予報などの情報を提供する地区特別気象センターの役割を担っています。5日先までの台風の進路や強さの予報の基礎となるのは、台風の中心位置と強さの観測です。太平洋は広いため島の気象観測所や船舶による観測データが少ないので、台風の観測には「ひまわり」が活躍します。

 台風の強さは最大風速と中心気圧で表わされます。これらを「ひまわり」で観測するといっても、風速計や気圧計を使うわけではありません。実は、気象庁予報部予報課の現業当番者がコンピューター端末を使って台風の「顔つき」を観察(解析)することで、間接的に測っているのです。

 台風に伴う雲域は、その一生の間にさまざまに変化し、個々の台風を構成する雲パターンも多様です。台風に伴う雲域を構成する特徴的な雲パターンの「顔つき」から着目点を定量化して強さに結び付く数値を求め、87年まで行われていた米軍の飛行機観測による最大風速と同時刻の雲画像から得られた台風の「顔つき」を表わす数値との間の統計的な関係によって、台風の強さをかなりの精度で求めることができます。

 台風の「顔つき」として、雲域の形はどうか(厚くて円形を成すほど強い)、眼めがあるかないか(円形の雲域の中央付近にあるほど、またぱっちりした丸い眼ほど強い)、眼の直径はどれくらいか(小さく引き締まった眼ほど強い)、台風の中心に向かって巻き込む組織的な雲の帯が何度の中心角で存在するか(角度が広いほど強い)などを測ります。

 「ひまわり」の雲画像に台風が写っていたら、その「顔つき」から強さをおおまかに推定して同じ時刻の天気図や台風情報に示された中心気圧などと比べてみるといかがでしょうか。きっと、「ひまわり」の雲画像がより身近なものに思えるようになるでしょう。







(上毛新聞 2011年1月24日掲載)