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大川美術館館長  寺田 勝彦(桐生市宮本町)



【略歴】東京都出身。学習院大大学院修了(美学美術史専攻)。学習院女子高等科科長などを歴任。学習院名誉教授。清春白樺美術館理事。日本ユネスコ協会連盟会員。


学校の美術指導



◎鑑賞する習慣を育てて



 昨年11月、小・中学校の美術教員の研修を目的とした「第47回群馬県造型美術研究会・秋季研修会」が、桐生市で行われたのを機会に、現役の先生方にまじって中学校美術の公開授業を参観することができた。

 本来、美術館の良しあしは収蔵品や企画展の内容で決まるはずなのだが、大都市の大規模美術館での企画展は別にして、当館のような地方都市の美術館へは、展覧会の内容にかかわらず、人はなかなか足を運んでくれないのである。その原因はいろいろ考えられるにしても、一つには、これまでのわが国の学校教育における「美術指導」が、本当の意味での美術愛好者を育ててこなかったことにあると思っている。たとえば、インテリアやファッションにこだわりを持つ人は多くいても、それが美術館へ行こうという考えには結びつかないのである。それどころか、「絵は難しい」とか「絵の見方がわからないから」といった理由で美術館へ行くことを敬遠する人が依然として多いのである。

 確かに、これまでの美術の指導は、幼稚園などの「お絵描き」や小学校の「図工」まではまだしも、中学校や高校においても、なお実技が中心に扱われ、その分、作品の楽しみ方を教える「鑑賞指導」がなおざりにされていたのではないだろうか。絵を描くことが不得手でも、絵を見る楽しさを感じ取ることのできる生徒は必ずいるはずである。にもかかわらず、これまでの指導が実技偏重のあまり、生徒たちの鑑賞する習慣を育てることを怠ってきたのである。もし、鑑賞する習慣が身についていなければ、美術作品はもちろん、美術館が自分たちの生活や人生に必要な存在であるという発想など生まれてこなくて当然であろう。

 今回、私が参観した桐生市立桜木中学校の公開授業は、実技ではなく「鑑賞」の指導であった。授業を受けたのは2年生で、指導には担当の先生のほかに県立館林美術館の学芸員が加わっていた。

 実は、まだ十分に周知されているとはいえないが、近年、美術館では、学校向けの普及活動に力を入れようとしているのである。この授業に用意された教具も、館林美術館で実際に展示される作品を印刷したカードであったり、同館で開催された展覧会のポスターなどであった。授業の詳細については省略せざるを得ないが、担当の先生だけでなく、専門家である学芸員の助言を得ながら、ゲーム形式で進められた授業は、鑑賞に苦手意識を持つ生徒もいたはずだが、みな、実に楽しそうに学んでいた。こうした体験から地域の美術館に親近感を持つことができ、いつか本物の作品を見に美術館へ来てくれるようになれば、これほどうれしいことはないとつくづく思った。







(上毛新聞 2011年1月25日掲載)