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東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹(茨城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


地域の観光振興



◎満足感の醸成が不可欠



 数年前、アンケート実施のため、あらかじめ依頼していた観光施設に伺った時のこと。十分確認しない当方が悪かったのだが、隣にあった別の施設を間違えて訪問してしまった。するとかなり厳しい言葉で「調査なんか聞いていない。よそをあたってくれ」と言われた。また近くの別の観光施設での話。同様にあいさつしたところ、責任者の方はこちらの顔を一瞥(いちべつ)もせず、スポーツ新聞を読んだままだった。

 「何か悪いことをしてしまったのだろうか。先方はどうしてしまったのだろうか」と思う一方、地域全体に対する距離感、バリアー感を感じずにはいられなかった。調査での訪問時の事例であるが、もし観光者として来訪していたらとても残念な思いで帰路についていたと思う。

 観光行動は、非日常空間に赴くことから、その頻度は低く、観光地の情報を十分保有していないケースも多い。そのため、個人の主観やイメージに大きく影響され、事前の期待に対して十分な効用や効果が得られるかが来訪満足度を大きく規定すると考えられる。

 この満足への影響要因はいくつかあるが、会話をはじめとする人とのやりとりなどの人的要因は観光資源、宿泊施設への充足感と同程度影響するとも言われている。

 前述した二つの事例は、会話を通じて「がっかり」を経験したもので、良い印象を醸成できず、対応した当事者のおもてなし、ホスピタリティは必ずしも十分であるとは言えないと考えられる。満足の醸成に対してホスピタリティはなければならないという必要条件ではないが、できれば最低限の水準、願わくは地元の人との心温まるやりとりによって高い満足を作り出せる十分条件に当てはまると考えられる。

 さらにホスピタリティの特徴として、その優劣は単にその施設のイメージに留まらず、地域のイメージ形成に影響する点である。一カ所で受けた良好なイメージが地域への親近感、接近感を醸成し、また来たいという欲求を喚起する。イメージの外部性というべきか、効果が広く及ぶ。従ってホスピタリティはその施設の良否に限らず、地域のイメージ形成に対して広く大きな影響を与え、地域の根幹となる「ソフトインフラ」と位置付けできよう。

 そして、このような広い影響を醸し出すといった外部性のため、ホスピタリティは、個々人や施設ごとの対応に加えて、地域全体が一体となって取り組む課題といえる。

 満足感の醸成は来訪者数の多少よりも来訪者個々人の行動、すなわち消費金額、リピート率に影響し、地域における観光振興においてその底堅さに影響するものと考えることができる。






(上毛新聞 2011年2月4日掲載)