視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
管理栄養士  小坂 桂子(高崎市中室田町)



【略歴】明和学園短大卒。病院、老人ホーム勤務を経て、現在同短大非常勤講師。NPO法人群馬の食文化研究会理事。ぐんま女性会議で男女共同参画社会推進に取り組む。


食文化研究の目指すもの



◎人間再生の取り組みを



 前回(昨年12月10日付)は「健康寿命を延ばすために」と、高齢期における食生活の留意点についてお伝えしました。今回は、私が所属するNPO法人群馬の食文化研究会の活動の一端を紹介します。はじめに、本会は、法人以前の活動を含めると約20年の歴史をもっています。会の目的は「群馬県下の食と農と健康および教育に関する諸問題を調査・研究し、その成果を社会に発表・普及すること」にあります。

 最近の具体的な活動としてまず県内各地の伝統食の発掘と継承活動が挙げられます。過去5回、「伝統食のつどい」(伝統食数延べ120品余)を開催しました。県地産地消推進モデル事業および食と農の応援事業に応募して実施。「伝統食のつどい」の記録集として5冊を編集・発行し、ぐんまの伝統食の普及・活用の推進を図っています。さらに食料生産地・食品加工場等の現場視察研修、会誌「食文化つうしん」等、会員(生産者やあらゆる立場の消費者)への資料・情報の提供、その他料理講習等を含めた講演会などを行いました。

 この5年間の活動は本会の目的に沿ったものですが、特に伝統食は日常の生活のなかで作られた家庭料理であることから、日本の四季を大切にした文化を育む基本となるものとして考えられています。家庭料理を作ることは暮らしを大切にすることでもあり、それは家族を愛することにつながります。そのような願いをもつ皆さんが増えています。半面、環境負荷や健康リスクが高まり社会に長期的な損失を与える状況を考えると、本当の意味での経済効率を追求したことにはならないと思います。

 今から100年以上前に石川啄木が著した「林中の譚(たん)」という文章が最近「サルと人と森」という絵本になり読む機会がありました。本の中で「人は豊かさ、便利さを求めて、どんどん退化してしまった。怠けてしまったからだ」とサルが人間に言います。啄木の寓話(ぐうわ)を読み直し、人間本意のおごった考え方を変え、人間がより豊かに健全により人間らしく生きていきたいものです。社会の中で支え合っているという充実感、特に食を通じて、健全な人生観、社会観、世界観を養い人間本来の姿を取り戻す人間再生の取り組みを、あるべき日本の姿を見据えていきたいと願います。

 さて、「大地讃頌(しょう)」という合唱曲では、以下の詩を歌い上げています。



 母なる大地のふところに 我ら人の子の喜びはある 大地を愛せよ 大地に生きる人の子ら その立つ土に感謝せよ(後略)



 詩の持つ意味もかみしめつつ、皆さまとともに食文化研究の活動を地道に続けてまいりたいと思います。








(上毛新聞 2011年2月7日掲載)