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群馬ダイヤモンドペガサスマネジャー  谷口 弘典(高崎市貝沢町)



【略歴】北海道出身。札幌西高、高崎経済大を卒業後、米独立リーグで捕手としてプレー。NPB千葉ロッテマリーンズのチームスタッフを経て2008年から現職。



全力疾走



◎真剣勝負の中の楽しさ



 昨今のプロ野球人気には陰りが見えていたが、斎藤佑樹投手の登場で盛り返しつつある。連日の斎藤フィーバーはもはや野球界にとどまらず、日本の社会現象になっている。斎藤投手は周知の事実ではあるが、群馬県出身である。斎藤投手を絡めた“群馬名物産業”が生まれているくらいであり、群馬県民にとってはうれしい限りである。

 野球をまったく知らない人がファンになってしまうほどの斎藤投手の魅力は、いったいどこにあるのだろうか。実力はもちろんだろうが、メディアを通じての記者との問答から受ける印象―すなわち誠実さであろうか。何に対しても一生懸命でまじめだという真摯(しんし)な態度も要因であろう。

 石川遼選手もしかりであるが、誠実や真摯というイメージが十分な個性となりうる時代になっている。両選手とも本来のスポーツの楽しみ方を自分自身がしているだけなのに、周りにも十二分に楽しみ方を表現している。要は真剣勝負の中に生まれる楽しさである。

 先日、某テレビ番組で放映された斎藤投手の特集を見た。その時の早稲田大学野球部の謎かけ。「早稲田大学野球部4年生とかけて…一塁ベースと解く…その心は…最後まで全力で突っ走る!」。とにかく全力プレーでファンを魅了してもらいたい。プロになっても忘れてほしくない。

 前回の原稿にも書いたが、群馬ダイヤモンドペガサスからオリックスバッファローズに入団したカラバイヨ選手は一塁まで全力疾走している。当然のことではあるが、受け答えがしっかりしているとか全力疾走しているとか、今はそんなことが個性と言われてしまう。いびつともいうべき世の中に、どれだけの人が気づいているだろうか。

 群馬ダイヤモンドペガサスが所属するBCリーグにもNPB(日本プロ野球機構)のスカウトがかなり見に来るようになった。投手が投げたボールが打者のスイングしたバットにコンタクトした瞬間から、打者走者の1塁ベース駆け抜けのタイムをこぞって測っている。イチロー選手は3・7秒前後で走るそうだ。

 某メジャーリーグ球団のスカウトの話を聞いた。今年ツインズ入りした元ロッテで俊足の西岡剛選手が昨シーズンの春先にメジャーリーグに行きたいと言って来たそうだ。でも、そのスカウトは「お前は無理だよ。1塁まで5秒かかっている」と一蹴したそうだ。要するに全力疾走していなかったのである。以来西岡選手は全力で走った。そしてパリーグではイチロー選手以来の200安打を達成、晴れてメジャー入りした。

 内野安打が多く、世界で現役最高安打を記録しているイチロー選手が、当たり前のことを当たり前にやり、1本のヒットの大切さを一番知っているのかもしれない。








(上毛新聞 2011年2月8日掲載)