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共愛学園前橋国際大・入試広報・進路センター長  岩田 雅明(前橋市昭和町)



【略歴】東京都立大法学部卒後、共愛学園に就職。共愛学園前橋国際大の立ち上げと改革に尽力し、その経験から大学選びや学校経営などの著書3冊を著した。


大学危機時代



◎ニーズに合った変革を



 群馬県に雪便りが聞かれるようになると、受験シーズンが本格的に始まってくる。少子化という厳しい環境の中で、大学では約4割、短期大学では約7割の学校が入学定員を充足できていない状況になっている。そして、2010年度には五つの大学が学生募集を停止し、在学生の卒業を待って閉鎖するという事態にまで至っている。

 10年度でみると、全国の私立大学入学定員は45万783人(通信教育部のみ設置の大学除く)、国公立大学が12万3629人(夜間主コース除く)で、合わせて57万4412人となっている。同年度の18歳人口は約122万人なので、これに大学進学率47・6%(通信教育部・定時制は除く。過年度卒除く)を乗じると大学進学者は約58万人となり、大学の入学定員とほぼ同数となっている。このように全体で見ると進学者と大学側の受け入れ定員は均衡がとれているが、実際には人気格差により4割近い大学が定員割れとなっているのである。

 18歳人口は今後10年間横ばい状況で推移するが、21年度になると現在より10万人程度減少することになる。仮に半分が大学進学者としても、5万人の入学者が減少することになる。5万人といえば、小規模な大学で考えると200から300校程度の入学者に相当する数である。このため、各大学ともこの先10年間の18歳人口安定期に、それぞれの存在意義を高める方策を企画し、実行していく必要があるといえる。

 先に大学危機時代を迎えたアメリカの、マーケティングの著名な研究者カレン・フォックス博士は、08年に来日した際のインタビューで次のように語っていた。「危機に直面した大学が再生するための方策は三つしかない」と。三つの道とは、規模を縮小するダウンサイジング、他大学によるМ&A、そしてイノベーション、変革である。

 日本の大学の現状を見ると、既にダウンサイジングやМ&Aといった道を選択した大学が出てきている。もちろん人口減少の時代であるから、市場を調整するという意味でのダウンサイジングや、補強しあうМ&Aは有用な選択といえる場合も少なくないであろう。しかし大学が取るべき最適な選択肢は、やはり時代のニーズに対応したイノベーションという道である。

 最近、注目度の高まっている経営学者のドラッカーによると、イノベーションとは既存の資源に対して、新しい価値を生み出す能力をもたらすことである。これまでの大学は、学問の研究と教授を主たる使命としてきた。この主たる使命は引き続き担いつつ、日本の社会の活性化に貢献できる人材の養成をも担える大学になるためにはどうするべきかが、いま各大学に問われているといえよう。






(上毛新聞 2011年2月15日掲載)