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中之条ビエンナーレ総合ディレクター  山重 徹夫(中之条町上沢渡)



【略歴】広島県出身。多摩美大卒。制作ディレクターなどを経てデザイン事務所Playground Studio主宰。アートイベントやクリエイティブセンターTSUMUJI運営。


tsumujiから



◎ものづくり考える場に



 昨年7月、中之条町中央商店街にユニークな形の施設がオープンした。円形のホールと芝生広場の周りにカフェやショップなどが並び、いろいろな店舗が横丁のように軒を連ねている。その渦巻き状の形から

「tsumuji(つむじ)」と名付けられ、地域住民や観光客でにぎわっている。

 私がtsumujiを請け負うことに至ったのは、この町で行ったアートイベントがきっかけとなった。年々目立つようになった商店街の空き店舗でアートエキシビションを行ったことで、多くの来場者が商店街通りをにぎわしたのだ。その活気のある光景を見て地元の方々はとても喜んでくれた。以前よりアートの持つ面白さと集客力がこの町で何かの役に立てるのであれば、ぜひ協力したいと思っていたので、私もこの反響はとてもうれしかった。新しく生まれる商業施設にもクリエイティブな要素が加われば、多くの副産物が生まれ新たなコミュニティーができるだろうと考えた。「ものづくりを考える場所」というコンセプトを打ち立てた経緯はそこにある。

 商店街を以前のように再生するのではなく、ものづくりを通して新しい場所をつくり地域を活性化する。運営スタッフは地元出身者とアーティストで構成し、施設内の家具や什器(じゅうき)などは地元で古くから使われている家具をリペアして蘇(よみが)えらせ、テーブルやイスはカモシカをイメージしたものをオーダーメードした。その工程のさまざまな部分で今まで行政が行っていた箱物づくりとは違っていた。

 ショップで扱う商品も大量生産したモノではなく、作家や町の人が一つ一つ手作りしたモノを集め、ここでしか買えない商品が棚に並んだ。町民の誰もがメーカーとなれる場所を目指し、町内の作り手を「町民メーカー」と呼ぶことにした。オープンから半年余りがたったいまでは町民メーカーの数も増え、個性的な地元産の商品が目立ってきている。

 そして、一人でも多くの町民にものづくりの楽しみを知ってもらえるようにと、さまざまな作家によるワークショップを定期的に行うようになった。こういった場所ができたことで、むかし竹細工や木工品を作っていた人たちが再びものづくりに挑戦したり、自分の商品が店頭に並ぶことを生きがいにしてくれていることはとてもうれしく思う。今後は商品開発からパッケージなどの場面でアーティストが関わり、この土地特有の商品ブランディングに取り組んでいきたい。

 日本の地方には多くの地域資源と人材がある。そこにクリエイティブな要素を取り入れ、tsumujiは地域資源を生かすプロダクトメーカーであるとともに、ものづくりを通じてみんなが集まれるプレイスメーカーでありたいと思う。







(上毛新聞 2011年2月16日掲載)