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学習塾経営  福田 一男(大泉町吉田)



【略歴】新潟大大学院修了。三洋電機で半導体開発に携わり、07年、県内公立校で初めて民間から登用され、昨春まで太田商高校長。著書に『コスモスは咲く、必ず咲く』。


旅の効用



◎次の行動の指針得る



 私が最初に海外旅行に出かけたのは今からちょうど34年前、就職直前のときであった。今でこそ卒業旅行は一般化されてきているが、当時はそんな言葉もなく貧乏人であった私にとっては一大決心であった。初めて飛行機に乗り、英語も満足にしゃべれないのに約1カ月半の英国旅行にたった1人で出かけた。しかし、生来の楽天主義のせいか不安は全くなく未知の世界に挑戦する冒険者のようにわくわくしていた。

 英国では一般家庭にホームステイし、語学学校で英語を学びながら週末は各地を旅した。ホームステイ先では3人の子供とすぐ仲良くなり、毎日一緒に遊んだが、それが英語の勉強には一番効果的であった。そんなある日、ホームステイ先で奥さんと紅茶を飲みながら談笑しているときに、8歳の子供が砂糖を壺ごと全部、じゅうたんの上にこぼしてしまった。あっ、これはお母さんにこっぴどく怒られるなと直感した。ところがお母さんは何も言わず8歳の子供を見守っているだけだった。すると子供は自分で掃除機を持ってきて砂糖を吸い取りきれいに掃除したのだった。これをみて「素晴しい教育がなされている」と感心した。たった、これだけのことであるが私には非常に印象に残った光景であり、大いなる収穫であった。

 こんな発見もあり、それ以来、稼いだ給料は全て国内外の旅行に費やし結婚時の所持金はゼロであった。

 昨夏はエジプトへ旅行に出かけた。世界最古の文明への期待感から数カ月前から旅行誌を読みあさり、全て暗記してしまうほどであった。しかし、百聞は一見に如かず、この目で見たエジプトの印象は強烈だった。また専属ガイドの説明を聞き、さまざまな体験そして勉強ができた。エジプトはどこもごみの山。アパート上階にある部屋の窓からごみを平気で路地に落とす人、ちり取りで集めたごみを平気で道路に捨てる人。学校は1学級80人が当り前。教育は無償だが学校の授業だけでは理解が届かず家庭教師が必要。またエジプトの歳入の一番は観光収入だが二番目はスエズ運河の通行料。1隻数千万円かかる。国内に仕事はほとんどなく優秀な人材は海外に流出。政権は30年間続き腐敗し無政策状態であった。

 この状況を見るとなぜか日本の最近の様相に近い。ごみが氾濫し、塾がはやり国内産業は空洞化し政治は期待できない。エジプトの凋落(ちょうらく)ぶりがなぜか太平洋戦争後、世界一の経済大国にまで発展した日本の現在の姿と重なってみえる。

 「かわいい子には旅をさせよ」という諺(ことわざ)があるが、旅して一番思うことは旅先のことでなく故郷のことである。旅には故郷そして自分を客観的に眺め、次なる行動の指針となるヒントが得られる効用がある。








(上毛新聞 2011年2月17日掲載)