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神流町恐竜センター学芸員  佐藤 和久(神流町神ケ原)



【略歴】埼玉県出身。千葉大卒。モンゴルでの化石発掘を機に不動産会社を退職。1999年から恐竜センターに勤務。2003年には、学芸員の資格を取得した。


壁にぶつかった時



◎みんなの利益を考える



 私が就職活動をしたバブル経済の終わりごろは、今と違い買い手市場であった。私は生活の基本的な要件である「衣食住」の中から、自分の専門に近いと思った「住」を選んだ。そのころ、不動産業はまもなくバブルが崩壊し、厳しくなるだろうとの予測があったが、厳しい状況を経験するのもよいと思い、大手不動産会社に就職した。

 私は現場を希望したが、本社人事部に配属された。同期からはうらやましがられたが、全くイメージのない部署に対し不安でいっぱいだった。そのため、入社後、会社独自の規則や職場の雰囲気になじめず、ちょっと浮いた感じになった。さらに、入社1年目の2月には生がきによる急性肝炎で3週間入院し、多くの方に迷惑をかけ、心身共に健康でいるためには、自分自身が管理しなければならないことを学んだ。

 その後、バブル崩壊によるリストラにより、多くの若手同様、私も支店に異動となった。異動してすぐのころは、仕事の理解が悪く、上司によく叱られた。理由は自分のやり方を押し通そうとしたり、わからないことがあっても聞かなかったりしたからだ。そのたびに、物事を客観的に見ることや相談するよう上司から指導を受けた。おかげで、2年くらいたって全体の流れがわかるようになり、仕事に余裕を持って取り組めるようになった。

 その後、次の仕事のあてもないまま会社を辞め、周りからずいぶんと反対されたが、その間ボランティアでさまざまな博物館に行ったことは大変役に立った。

 そう言えば、辞める前に上司に相談したが、全く反対されなかった。別の会社に移るというのであれば反対するが、純粋に好きなことをするためであれば、引き留められないと。本当にありがたかった。

 さて、当センターの運営も昨今の不況や台風の被害等による入館減などにより、常に順調ではなく、周辺施設も似たような状況であることが多い。そのような時、上野村など周辺施設から協力要請があり、打ち合わせを重ねるうちに、自施設の利益だけでなく、みんなの利益になることを考えるようになった。そしてこの地域に多くの可能性があることに気づき、連携して各種体験イベントや営業活動などを行ううちに、自然とその輪が広がった。そこで、誰でもよいわけではなく有意な人とのつながりが大切であると実感した。

 仕事だけでなく私生活でも、いわゆる壁にぶつかることがあるが、それに対し不平不満を言ったり、他人のせいにして責任転嫁したり逃げていては何も解決しない。状況を冷静に受け入れ、エゴを捨て、その時自分にできることを真剣にやると、自然と周囲の協力も得られ、新たな可能性を見つけられると実感している。







(上毛新聞 2011年2月18日掲載)