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音楽ライター  サラーム 海上(東京都世田谷区)



【略歴】高崎市出身。本名は海上卓也。明治大政経学部卒。2000年からフリーで執筆。和光大学オープンカレッジ講師。ラジオのレギュラーとしてDJも担当する。



エジプトの民主化運動



◎歴史を変える事件



 「ドーン!」空からはそれまで聞いたことのない爆発音のような音が響き、続いて猛烈な地響きが辺りを包み込んだ。慌ててホテルの部屋の窓を開けて空を見上げたが、姿は見えない。超音速戦闘機? やれやれ、無事帰国できるかなあ。 1月30日、エジプトの首都カイロでのことだ。僕は音楽取材に訪れた15年ぶりのカイロで革命の現場に巻き込まれてしまったのだ。

 着いた当初は順風満帆だった。さまざまなジャンルの音楽家や新たに開いたライブハウスを芋づる式に知り、毎晩取材した。古典音楽の現代的な表現を模索するシンガー・ソングライターや、エジプトのアフリカ性を追求する伝統舞踊音楽団、結婚式で活躍するDJ達、成功した芸術家が設立した文化交流センター、etc…。カイロの新しい音楽シーンがこれほど充実し始めていたとは、インターネットを駆使したところで日本からは全く知る事はできなかった。すごいぞ!と思い始めたその最中である。公演は当然キャンセルされ、携帯電話も止められたので連絡も取れない。取材はオジャンだ。

 最初は「1日限りのデモだ。明日には平常に戻る」と言っていた市民たちだが、政府により携帯電話とインターネットが遮断され、夜間外出禁止令が連日施行されるとともに次第に雲行きが変わってきた。仕事や生活に支障が出始めた市民達は夜の路上に繰り出し、デモは日に日に規模が増していった。ムバラク前大統領の取った処置はすべて裏目に出たとしか言いようない。

 2月1日の朝、カイロ国際空港は先を争う人の山で混乱していた。年末年始の成田どころじゃない。荷物検査から搭乗ゲートまで5時間かかり、フライトは1時間半遅れた。結局イスタンブールでの乗継便には間に合わず、韓国経由に振り替えてもらい、翌日の夜、9時間遅れで成田に無事到着した。

 革命は2月11日に成功した。しかし、僕は今もインターネットでアルジャジーラTVの生放送を見続け、7時間の時差ボケは直らないままだ。

 2011年のエジプト。僕の専門分野である音楽シーンの変化は確実に感じられた。しかし、人々が新しい音楽を求めるよりも、社会の変革を求める力、速度のほうが圧倒的に強く、速かったのだ。音楽取材にはまた行けばよい。

 チュニジアのジャスミン革命から始まり、エジプト、ヨルダン、イエメン、スーダン、イランまで及んだ民主化運動。いったいどこまで広がるのか? 僕は政治音痴なのでわからない。ただ、現場にいた一人として、あれこそ1989年のベルリンの壁崩壊、2001年の9・11テロと並ぶ、歴史を変える事件であると確信している。






(上毛新聞 2011年2月21日掲載)