視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
藤岡北高教諭  中尾 徹也(藤岡市牛田)



【略歴】藤岡市生まれ。東京農業大農学部卒。1995年、県の農業教員として採用され、伊勢崎興陽高に赴任。その後、富岡実業高を経て、昨年から現職。


食農教育の実践



◎地域農業活性化に貢献



 「先生、みどりのトマトはおいしいの?」。幼稚園児の好奇心は純粋だ。「みんなで食べてみようよ」。そう提案し、食べてみると「苦い、おいしくない!」と大騒ぎである。「じゃあ、今度は赤いトマトを食べようよ」。すると、ぱっと表情が変わり、「おいしい、甘い!」と笑顔が広がる。好き嫌いがあるはずのトマトを食べて、園児全員が喜んでいる。おいしさは味だけではない。そのときの雰囲気や原風景も含めて味わい、そして記憶に残る。

 現在、さまざまな場面で食農教育の重要性を唱え、多様なプログラムが実践されている。農業高校でも幼稚園児や小中学生と野菜や草花の栽培を通して、収穫の喜びや感動を体験し、生命の大切さや農業の楽しさを学ぶ交流活動を行っている。この活動では幼稚園児や小中学生だけではなく、私たち教員や高校生も多くのことを学ぶ良い機会となっている。

 農業高校生は日ごろの授業や実習で学んだことを教え、知識や技術を再確認することができる。また、幼稚園児や小中学生に伝えるため、ごく自然に目線の高さを合わせたり、分かりやすい言葉を模索したりと、お互いに楽しい体験学習ができるよう工夫している姿が見られる。高校生は交流活動を通して、表現力やコミュニケーション能力を培っている。

 食農教育では、幼稚園児や小中学生の農業体験学習への取り組みを推進し、農業理解と食料自給率向上を目指して、さまざまな活動が行われている。食農教育実践によって、農業高校や地元生産者との交流が深まり、地元の農産物や食文化に関心を持つことで、「地産地消」運動につながっているはずである。また、継続的な活動から、顔の見える生産者がつくる安全で安心な地元産農産物を利用した学校給食へと発展していくことにより、地域の食と農業の再生や活性化に貢献できる。

 これからの食農教育は、学校・生産者・農協・行政などがネットワーク化されることで、より効果的になり、可能性も広がってくると考える。農業高校生は交流活動を通して、貢献した達成感が認められたことが自信へとつながり、担い手に関心を持つ。幼稚園児や小中学生は、農業体験を通して、生きる力と地元の農産物や郷土食のおいしさ、感動を学ぶ。

 食農教育実践は、子供たちと地域社会の未来を変える貴重な教育活動である。幼少期の好奇心や感動を膨らませ、食と農業を通して郷土愛をはぐくむ教育活動を発展させるため、農業高校が核となり、地域社会に貢献できる幅広い農業教育を実践していきたい。






(上毛新聞 2011年2月23日掲載)