視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
プロデューサー・プランナーK&AssociatesInternational代表
                              川島 佳子
(東京都港区)



【略歴】館林市出身。立教大大学院修了。企画会社、財団職員などを経て現職。NPOちきゅう市民クラブ事務局長、県人会理事、ピッコロ・バイオリン研究会代表、ほか。


ピッコロ・バイオリン



◎頑張る人を応援しよう



 私の活動の一つに「ピッコロ・バイオリン研究会」がある。著名な音響学者、カーリン・ハッチンス博士の手による新しい楽器と、その演奏家グレゴリー・セドフ氏を支援する目的で立ち上げた。この楽器は、ベル研究所がNASAのために開発した特殊なワイヤーをE線に使うことで、通常のバイオリン(以下Vと記す)の1オクターブ高い音域をまろやかに奏でる。

 ハッチンス女史は30年以上にわたり、ストラディバリウス等を含む1000丁近い弦楽器の解体研究を行い、ものづくりのデータベース化により良い音の弦楽器の法則性を見いだした。その過程で、科学的な音のバランスを図りピアノの音域に合わせ、コントラバス・Vからピッコロ・Vまで新しい弦楽器を8種作った。ピッコロ・Vの高音域を実現するには何年もの試行錯誤が続き、ついに科学技術の恩恵により、0・178ミリの極細ながら、530000psiという強度を備えた特殊な素材の出現を待って楽器は完成した。

 一方、この楽器の世界で最初のソリスト、セドフ氏は、名門サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー・オーケストラの第一バイオリニストで、国立音楽院の先生としても活躍している。そういう人が、演奏法の難しい小さな楽器に一から挑戦し、新しい音楽の世界を広げようとしている。群響のチェリスト、グルチン氏は彼の親友だ。

 縁あって、2007年以来、毎年セドフ氏のツアーを主催している。「よくそんな大変なことをしている、なぜ」と問われることがある。それは、私自身、思考の地平が開けた感動の出会いであり、楽器製作者と演奏家の挑戦を応援したいとの純粋な気持ちからだった。しかし、さらに私の挑戦に火をつけたのは、思いもかけない壁であった。「新しい楽器は邪道」「正当なものでない」など。大きなショックが私を駆りたてた。そして、やり続けると応援してくださる方々が次々に現れた。昨年は皇后陛下美智子さまもご鑑賞くださった。

 クラシック音楽の世界は、ある種特殊かもしれない。しかし、どの分野にもパイオニア的に挑戦している人たちが世界に大勢いる。それらの人たちは無名で、恐らく一様に苦労されていると想像される。そういう人たち全てにエールを贈りたい。実際、そういう人たちのおかげで、世の中の発展が支えられているのだ。

 この楽器は、ものづくりの新しいヒントになるのではないか。音楽に限らず、人間工学など広い分野での可能性の扉がそこにある。多くの人に扉を開けてもらいたい。頑張る人を応援したい、その気持ちが自分も頑張れる原動力になる。

“helpmeto helpyou”途上国出身の工学博士の言葉が心に響く。







(上毛新聞 2011年2月25日掲載)