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黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長・画像センター長
                              佐藤 裕一
(高崎市矢中町)



【略歴】新潟県柏崎市生まれ。日本大医学部卒。同大医学部内科学教授を務めた後、2009年から現職。


コレステロール値



◎進歩した動脈硬化診断



 ご存じでしょうか? わが国における食生活の欧米化はますます加速し、食事によるコレステロール摂取量は、もはや本家米国、欧州をしのいでいます。食生活の行きすぎた欧米化は、かつての肺結核に代わり、新たな国民病を生みだしつつあるのです。

 2007年に改訂された日本動脈硬化学会のガイドラインによると、空腹時の血中LDLコレステロール値140mg以上、血中HDLコレステロール値40mg/dl以下、または中性脂肪150mg/dl以上を脂質代謝異常症として、食事療法を含む治療が必要であるとしています。

 このガイドラインはかなり厳しいもので、われわれのクリニックにおける年間約2万人のドック受診者のデータによれば、群馬県民の4人に1人が病人ということになってしまいます。

 一方、昨年発表された日本脂質栄養学会によれば、血中コレステロール値は高い方が長寿である、というこれまでの常識をくつがえすデータが報告され、マスコミに注目されたことをご記憶の方も多いかと思います。本来、コレステロールは血管を強くする働きがあるので、栄養状態の改善が戦後日本人の平均余命を飛躍的に伸ばしたとも言えます。

 それでは、コレステロールが高いと言われても気にしなくていいのでしょうか。「コレステロール値だけでは動脈硬化はわからない」というのが結論です。脂質代謝異常はもちろん動脈硬化症の重要な要素ですが、それだけでは動脈硬化が進行することはありません。高血圧症、男性であること、喫煙、糖尿病、肥満などの動脈硬化症危険因子が同時にある場合には注意が必要ですが、それでも直ちに薬を服用せよ、というのは短絡的です。 狭心症や心筋梗塞症の既往がある場合には、コレステロール低下療法が病気の再発に効果があることが実証されていますが、そうでない場合、コレステロール低下療法の効果は明らかではないからです。

 近年、動脈硬化症の診断法には飛躍的な進歩があります。脈波伝搬速度を用いた血管の硬さを調べる方法、頸動脈エコーで頸の血管の動脈硬化を直接見る方法、そして最も敏感な検査であるFMD検査が代表的な検査法です。中でも特に頸動脈エコー検査とFMD検査を用いることで、心筋梗塞症や脳梗塞症の発症を予知することができます。

 ですから、病院の検査や健診で脂質代謝異常と言われたら、これらの2次検査を受け、必要に応じて食事療法または薬物療法の是非を選択するのが賢明です。







(上毛新聞 2011年3月1日掲載)