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ぐんまちゃん家店長  柴田 直美(横浜市)



【略歴】横浜市出身。南山短期大卒。日本経営協会などでマナー研修、語学研修の講師として指導。専門分野はCS(お客さま満足度)向上。


花豆から学んだこと



◎勝ち取ったものを還元



 花豆―群馬県が誇る気品あふれる豆である。私も、ぐんまちゃん家で働かせていただくようになり、ハマった一人だ。

 昨年秋、とても上品なご婦人と親しくなった。そのお客さまは群馬県ご出身ではないが、群馬県産花豆の大ファンでいらっしゃるという。きっかけは、お客さまからの電話だった。「花豆は入荷しましたか」と何度もお問い合わせをいただいたことから、お声を覚えたのである。

 群馬県産花豆を使って、ご自身で煮豆を作りたいと、1年分を購入されるご予定とのことであった。ご承知の通り、昨年は猛暑の影響で花豆の収穫が厳しく、ぐんまちゃん家には入荷がなかった。その都度、「今年の入荷は難しそうです」とお答えしていた。「残念ですね」、それだけを話されて電話を切られるお声に、いつも後ろ髪を引かれる思いがあった。お客さまの連絡先をお聞きしたのだが、「こちらからかけますから大丈夫です」と気を遣われる方なのである。

 そんなとき、産地から少し分けていただけるという連絡が入った。花豆が入荷したその日のこと。いつものお電話がないかと思っていた矢先、何とそのお客さまが来店された。あまりの偶然に言葉を失っている私を尻目に、お客さまは花豆を手に取り、本当にうれしそうな笑顔を浮かべていらっしゃった。お客さまの「あきらめない気持ち」が天に通じたとしか思えない瞬間であった。

 結局、お客さまは10袋購入された。もちろん、年配のご婦人が一人で持ち帰ることのできる重さではない。宅配は不要とおっしゃるため、数回に分けて来店されることになったのだが、次に来店されたとき、カップ1杯の煮豆を持ってきてくださった。あれほどのこだわりを持って購入された花豆。その貴重な花豆を、縁もゆかりもない私に惜しげもなく分けてくださったお客さまの凛(りん)とした姿が実に印象的であった。

 今の社会は一種の「椅子取りゲーム」といえる。企業はお客さまという椅子を奪い合い、学生は就職先という椅子を奪い合う。もちろん、競争社会である以上、椅子を勝ち取るために他者以上に努力することは当然である。

 しかし、実社会における椅子取りゲームの本質は、椅子を勝ち取ることそのものにあるのではなく、勝ち取った後、それをいかに社会に還元できるかを競うことではないかと思う。たとえ競争に勝った者でも、獲得したものを社会に還元できなければ真の勝者とはいえないのではないだろうか。 花豆を通じて体験したささいなことだが、私にとって実に有意義なことを学ばせていただいた。まだまだ学ぶことの多い日々である。







(上毛新聞 2011年3月3日掲載)