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別府大文学部教授  丑木 幸男(大分県別府市)



【略歴】県文化財保護課、県史編さん室から武尊、渋川女子、中央各高校教諭を務めた後、国文学研究資料館史料館長、アーカイブズ研究系研究主幹などを歴任。


廃絶組織のアーカイブズ



◎県庁の文書が危ない?



 最近、郡役所文書を調査している。郡役所は町村と府県との中間行政機関として1878(明治11)年に設けられた官庁である。

 全国で537、群馬県では11の郡役所が設置された。安中市に残る旧碓氷郡役所が復元されているように、その建物を各地で保存・活用している。そこで作成・保管した行政文書を、1926(大正15)年、郡役所廃止時にどのように処理したかを調べている。

 郡役所文書はこれまでは全部廃棄され、現存していないと考えられていたが、各地に文書館が設立され、文書整理が進み史料情報が公開されるようになった結果、意外に都道府県庁文書の一部として保存していることが分かってきた。都道府県のほか、市町村役場にも郡役所との往復文書があり、郡役所へ勤務した個人の私文書の中にもある。

 郡役所文書には郡役所が行った行政、中間組織の性格から県政・市町村政、さらに郡民の生活を示す情報が満載であるが、分量が少なく、しかも断片的に残っているので活用は難しい。

 郡役所を廃止した折に、庁舎・郡立学校などの郡有財産とともに、行政に必要な行政文書は県庁へ、一部を町村や軍隊などに引き継ぎ、残りは廃棄した。数万冊を引き継いだ県もあるが、現存する郡役所文書のうち最多は奈良県の約2000冊、群馬県は59冊だけあり99・8%を廃棄した。十数県は皆無である。

 廃絶した組織の書類は使うこともないし、愛着も持たれないから、資源再利用とか行政事務刷新運動とかで廃棄されてしまう。大量に郡役所文書を保存していたある県では、同じような内容の書類だから、一郡だけを丁寧に大量に保存し、それ以外はその郡があったことが分かる書類を4、5点だけ保存したという。

 市町村役場は明治・昭和と合併を行い、行政文書が失われ、平成の合併でもその保存が危惧されている。

 さらに、合併により市町村が減少したので、道州制が現実味を帯びてきた。九州では地域的にまとまっていることもあり、具体的な検討が始まっている。それが実現すれば県庁は廃止されることになる。

 いくつかの県を統合した道州庁が、同じような書類が多いから典型的なある県の公文書を保存し、それ以外はその県があったことを示す書類数点をサンプルとして保存し、残りは廃棄し、道州制導入で県庁文書は危なくなり、県民の生活情報は失われかねない。道州制検討には、廃絶予定の県庁の行政文書保存を銘記して忘れてはなるまい。

 85年前に廃絶された郡役所文書の調査は、同じように廃絶された市町村役場や、これから廃絶されるかもしれない県庁の行政文書保存という、現在の課題を解決する手がかりを得るために進めているのである。







(上毛新聞 2011年3月4日掲載)