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生花店 有花園専務取締役  亀田 慎也(高崎市上和田町)



【略歴】高崎高、早稲田大教育学部卒。1998年から家業の生花店で働き、高崎青年会議所の活動にも携わる。高崎田町屋台通りを応援する「旦那(だんな)衆の会」代表。


観光客へ「上質な時間」



◎人材育て地域の宝提供



 日本政策投資銀行の藻谷浩介氏によれば、現在起こっているデフレは「生産年齢人口」減少に伴う「内需の縮小」にその病根があるという。戦後ほぼ2倍に増えた日本の生産年齢人口が96年を境に減少に転じた。そのため、現役世代を対象とした需要量が下がり、商品は値崩れを起こす。今、日本に必要なのは消費者であると説く(「デフレの正体」参照)。

 話変わって、昨年のプレ期間を経て、7月から「群馬デスティネーションキャンペーン(DC)」が幕を開ける。官民一体となっての取り組みであり、知名度が低いと言われる本県のイメージアップに大きな期待が寄せられる。また、あまり気づかれていない「地域の宝」を上手に使って県外からの観光客を呼び込もうとする試みも始まっている。

 高崎のコミュニティビジネスの担い手育成、起業促進プログラムに取り組む「高崎CIP」が考える「高崎場所あそび」がその一例だ。「高崎場所あそび」とは訪れたお客様に「場所の旬」を味わってもらい、「上質な時間」を提供するしつらえだ。とかく私たちは「自らの地域には何もない」と口にしてしまう。しかし「何もない」のではなく、「あるものに気がついていない」だけなのである。

 それぞれの地域には幾層にも重ねられた人々の営みがある。その営みへの想像力が現代に生きる私たちに有形無形の文化財(地域の宝)を提供してくれる。地域外から訪れたお客様はその地域にしかないもの、その土地を築いてきた数知れぬ人々の息遣いを味わうことに「上質な時間」を感じるのではないだろうか。どこにでもある「にぎやかな街」やショッピングモールと大差ない街並みに果たして感動を覚えるだろうか。

 公的資金を支出して街に活力を与えようと試みるのであれば、夢にうなされたように追い求めた消費拡大の延長線上にさらに上塗りするのではなく、需要がありながら見過ごされている部分に力点を置き、リピート効果が十分に期待できる分野により大きく投資していく必要がある。わが町をブランド化する、あるいは人の内面の豊かさを膨らませる、そしてそれらを後世へと橋渡しせんとする、そうした「人材」への投資こそが望ましい支出である。息苦しく上に背伸びする姿ではなく、地中深く根を張りめぐらせるイメージだ。

 藻谷氏の話に戻そう。消費世代が減少していくに当たって観光は大きな消費行動だ。他地域と同じパイを争うのであれば、リピートしていただく以外に消費額の増加は得られまい。観光誘客だけが真の目的ではないが、丁寧に時間をかけて作り上げる上質な営みを通じて、安定した経済の基盤を再構築する。限られた公的資金を2倍にも3倍にも使いつくす方法、少々息の長ーい方法を考えたい。








(上毛新聞 2011年3月6日掲載)