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群馬大大学院工学研究科教授  鵜飼 恵三(桐生市相生町)



【略歴】宮崎県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。群馬大工学部建設工学科助教授などを経て1992年に同大教授。日本地すべり学会長。工学博士。



廃棄された石膏ボード



◎再資源化へチャレンジ



 石膏(こう)ボードは、防火性に優れた建築資材として、ビルや住宅の天井・壁に広く使用されている。建築物が古くなって解体されると、石膏ボードは廃棄処分される。過去に、不法投棄された廃石膏ボードから硫化水素が発生して数件の死亡事故が起こったため、現在では廃石膏ボードは危険物に指定され、管理型処分場への廃棄が義務付けられている。

 建築物の解体時などに排出される廃石膏ボードの量は、毎年全国で110万トン、本県だけでも2万トンに達する。しかし、県内には廃石膏ボードを受け入れる管理型処分場がないため、その大半は引き取り業者にお金を払って県外で廃棄処分されている。

 石膏ボードが廃棄される現場での引き取り価格は1トン当たり3万円以上になるといわれ、本県全体で廃石膏ボードの引き取りにかかる費用は6億円を超える。また一部では、不法投棄など不適切な処分も問題になっている。さらに、石膏ボードの全国での生産量は毎年500万トンにおよび、今後も廃棄量の急激な増加が予想される。

 一方、石膏そのものは中性で人体に無害な材料である。さらに、石膏を130℃以上の温度で加熱すると半水石膏(焼石膏)が生成され、それを軟弱な土と混合すると土を硬化させる性質があることがわかっている。また、適切な処理をすることで硫化水素の発生を抑えることができる。

 このような石膏の性質に着目して、廃石膏ボードを県内で加熱処理し、地盤改良材などへ再資源化する道が開かれれば、大きなメリットがある。まず、県内に新たな管理型廃棄物処分場を建設する必要がなくなる。また、廃石膏ボードから半水石膏を製造し地盤改良材として活用する過程で、新たな環境事業が創生され、地域の活性化にもつながる。

 私の研究室では、8年前から廃石膏ボードを地盤改良材へ再利用する研究を進めてきた。最近では、群馬県の協力を得て、県内のため池改修工事や道路下の軟弱地盤改良工事に試験的に利用されるようになり、再資源化への道筋が出来つつある。県と大学が協力して廃石膏ボードの再資源化事業を進める試みは全国でも初めてであり、その成果が期待されている。

 私は、廃石膏ボードに限らず、一律的な環境規制の中で再利用が妨げられている廃棄物が大量にあるように感じている。環境の安全を第一に考える必要はあるが、廃棄物はそのまま処分場へ投棄して隔離するだけといったこれまでの発想には、再考の余地があると考えている。







(上毛新聞 2011年3月7日掲載)